専用ケースまでつくる徹底ぶり
こうした調査結果も意識して、18年9月の全面リニューアル時には、「置き型を入れる白い専用ケース(別売り)に、イラストやメッセージを描けるようにした」と中島さん。受験合格を願うメッセージのほか、入学や卒業祝い、各種イベント時にも使えるようにと工夫したそうです。
また、翌19年9月には、置き型専用ケースに「福」と描いた「ダルマデザイン」を採用。同時に、スティック型での「フックタイプ」の発売も始めました。これは、赤ちゃんの衛生対策として使いやすいよう、ベビーベッドに掛けて使用できるデザイン。いまではドラッグストア以外に雑貨店や、ベビー用品を扱う店でも売られています。
なぜシェア8割なのに、細かな工夫を続けるのか
ベビーベッドに掛けて使える形状や、「福」と描かれたダルマデザインといえば、いずれも「妊娠」と「受験期」、すなわち先の調査結果にあった、女性たちがクレベリンを欲する時期を意識したものだと分かりますよね。
ただ、「そこまで細かく工夫しなくても」と感じる人もいるかもしれません。なにしろ、クレベリンは主力の置き型で、既に置き型製品全体において国内シェア約8割を誇る超人気ブランド。今年の状況(新型肺炎の世界的流行)は特殊ですが、それ以前も毎年需要はうなぎ昇りでした。
にもかかわらず、なぜクレベリンは細かな商品ラインナップの見直しを図っているのか。実はここに、マーケティング上で陥りやすい「ブルー・オーシャンの罠」があります。
ブルー・オーシャン戦略とは
ブルー・オーシャンについては、既にご存じの方もいるでしょう。2004年、フランス・欧州経営大学院(INSEAD)のW・チャン・キム教授とレネ・モボルニュ教授が、同名の著書で提唱した経営&マーケティング戦略です。
彼らが「ブルー・オーシャン」と呼んだのは、真っ青に澄み切った海のように、まだ競争が起きていない未開拓市場のこと。これに対して既存の市場、すなわち競争が激しい領域は「レッド・オーシャン(血で血を洗うほど競争が激しい市場)」と呼ばれ、後から参入するのが難しい。
なぜなら、既に市場に参入している企業がシェアを獲得しているほか、持ち前の技術などでコストダウンを図り、同じような商品を「安く」提供できる可能性が高いからです。