「感染を防がなくては」「コロナで会社の業績が悪化しそう」「いつまでこの状態が続くのか」……。新型コロナウイルスの感染拡大は、健康、仕事、家庭、あらゆる面で不安を巻き起こしている。行動経済学に詳しいマーケティングライターの牛窪恵さんと、脳科学者の中野信子さんが、こうした不安にどう対応すべきかについて語った。

思考停止する人、自分で考えようとする人

【中野】大災害や、今回の新型コロナのような危機的状況への人々の反応は、大別して2種類ですよね。

 まずは「もう日本はおしまいだ」とすぐ言いたがる人たちです。この人たちのことを中野は「終末を愛しすぎた男」「終末を愛しすぎた女」とひそかに呼んでいますが……。終わりだ、と宣言することによって終息後のリカバリーの重荷や責任を思考の外に追いやることができ、気が楽になるので、そうなさるのでしょう。気持ちはわかります。

マーケティングライター牛窪 恵さん(左)と脳科学者中野信子さん(右)
マーケティングライター牛窪 恵さん(左)と脳科学者中野信子さん(右)

ただ、こういう人は今回に限らず、いつでも大災害や大きな事件が起きた時には、そう言うようです。2011年の東日本大震災、2008年のリーマンショック、2001年の同時多発テロ、1995年の阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、1986年のチェルノブイリ原発事故、オイルショック……。数え上げていけばきりがありません。

もっと歴史をたどっていけば平安時代の末法思想もよく似た構造を持っています。日本では1000年以上も前から、何かあると多くの人が「世も末だ」と言っていたわけです。その割には、何が終わったんだかよくわかりませんよね。いまだに人類は生き続けていますし。終わる終わる詐欺、とでもいうのか、「終わりだ」と盛んにおっしゃっている人を冷静に眺めていると、なんだかおもしろいですけれど。

一方、そうでない人たちもいます。その人たちは、「人類の歴史は困難の連続であった。今もその渦中にあるだけだ」と状況を捉えます。俯瞰的なとらえ方をする人たちですね。

【牛窪】ジャーナリストの池上彰さんは後者ですね。「歴史に学ぼう」と、よくおっしゃっています。

【中野】後者のほうが、落ち着いて自分の言葉で話しているという印象を持たれやすく、格好良く見えますよね。前者の「世も末だ」と考える人のほうが、圧倒的にたくさんいるから、対照的なこの人々の意見は際立つし、好意的に捉えられやすいと思います。

 ただ、世も末だ、という考え方はまったく合理的とはいえないのですが、たくさんの人がこう考えて思考を停めてしまうようですね。