「思考停止して付和雷同」は、実は悪いことではない?

【中野】ただ、思考停止する人のほうが圧倒的に多いということは、そちらの方が適応戦略であり、「そのほうが生きのびやすいからなんじゃないか」と思ったりもするんですよ。災害などがあったときには、思考停止する人たちのほうが生きのびやすいのかもしれない。だから、今も、そうなる人が多いのではないか。単純な生存競争と淘汰の理屈からです。

実は、思考停止する人が多いほうが、みんなの意見を統一し、協力して対応できていいのかもしれない。よく、「思考停止するな」「自分の頭で考えろ」と言いますが、それはかえって非常事態の時には危険なのかしれないという仮説も成り立ちます。

脳科学者中野信子さんとマーケティングライター牛窪 恵さん

【牛窪】確かに、マーケティングでも「顧客を思考停止に追い込むほうが、モノを売りやすい」という考え方はあります。深夜の通販番組で、「いま、こんなに多くのお客さんが電話に殺到している」とか、「あと30分以内にご注文の方に限り~」など畳み掛ける手法も、その一つです。「思考停止」だと、脳はどんな状態になっているんでしょうか?

【中野】わかりやすい例だと、たとえば、恋愛している時と同じ感じでしょうか。盲目的に相手の意見を好意的に受け入れやすく、反論は自分の中からは出てきにくい状態ですよね。集団でこれが起こっているときには、人々は声の大きい、強いリーダーに従いやすくなります。必ずしも正しいことを慎重に伝える人にはついていかないんです。

日本人は付和雷同の傾向が強いとされていますが、それにも理由があったのかもしれないと思えて仕方ないんです。日本は知っての通り非常に災害が多い国なので、何度も繰り返される危機をくぐり抜け、声の大きい、強いリーダーに従い、付和雷同的に生きる人が多く生き残ってきたのではないか、その結果として今があるのではないか。

自分の頭で考えるほうが確かに目立つし格好いい。ですが、適応戦略としては思考停止も実は悪いことではないのかもしれません。もちろん、「リーダーを適切に選んでいれば」という条件付きですが。

【牛窪】リーダーが間違ってしまうと、みんなで間違った方向に行ってしまいますからね。リーダーは、決して万能ではない……。だからこそ近年は、トップが「こうしなさい」と指令する「支配型リーダーシップ」ではなく、まず部下の話に耳を傾け、そこに共感・奉仕する「サーバント・リーダーシップ」が重視されるのだと思うのですが。

「不安のスパイラル」が発生する仕組み

【牛窪】不安が積み重なると、消費の世界では「探索行動」に出やすいとされます。既に購入した人の「評価」をチェックしたり、ニュースサイトやSNSで関連情報を調べようとググッたりするわけですね。
 特に今のように、なかなか外に出られず時間があると、ネットでいろいろ検索して、さらに不安をあおる情報を追いかけてしまいます。不安のスパイラルにはまってしまう。

【中野】そうなんですよ。特に若い人はその傾向が強いんです。大人の脳には、不安が増大し過ぎないようにブレーキをかける仕組みができてくるのですが、10代後半から20代の脳にはそうしたブレーキがまだない。このため、一度不安を感じ始めると増幅してしまう傾向が強い。

【牛窪】それはなぜでしょうか?

【中野】学習を促進するためです。10代、20代のころのほうが、「もうすぐ試験だから早く勉強しなくちゃ」などとあせって勉強する気持ちになることが多くありませんでしたか? あるいは、将来〇〇ができないと困るから、身につけなくちゃ、とか……。それが大人になると、「ここまでやったのだし、まあいいか」などと開き直ることもできてしまう。年を重ねると、安心と引き換えに、だんだん学習のモチベーションも下がってしまうんです。