マスクやトイレットペーパーの売り切れ、イベントの中止、一斉休校、在宅勤務……。新型コロナウイルス感染拡大で、人々の生活は大きく変わっている。脳科学者の中野信子さんと行動経済学に詳しいマーケティングライターの牛窪恵さんが、人々はなぜ買い占めに走るのかを解き明かす。

わかっているのに買ってしまう

【牛窪】新型コロナウイルスの影響で、マスクに加えてトイレットペーパーの買い占めが起こりました。行動経済学上は、「買い占めはよくない」と分かっていても、「ダメだ」と禁止されればされるほど衝動を抑えにくくなる、いわゆる「カリギュラ効果(ロミオとジュリエット効果)」に近いと言えるのですが、このあたりの心理について、脳科学的にはどのようにとらえてらっしゃいますか?

脳科学者中野信子さんとマーケティングライター牛窪 恵さん
脳科学者中野信子さんとマーケティングライター牛窪 恵さん

【中野】多くのみなさんは、「新型コロナウイルスの感染拡大が、ただちにトイレットペーパーの不足を引き起こすわけがない」と理解はしているはずです。

 面白いことに、日本トレンドリサーチが実施した調査で、「買いだめ」をしたという人に「マスクやトイレットペーパーなどが『今後不足する』という情報はデマだと知っているか」と聞くと、91.5%が「知っている」と回答した、という興味深いデータがあります。さらにこれに加えて、「今回の品薄・品切状態は買い占め行為が引き起こしている」と言われていることを知っているか聞くと、90.6%もの人が「知っている」と答えたそうなんです。

 つまり、理屈ではほとんどの人がわかっているんですよね。でも「もし万一、本当になくなってしまったらどうしよう」という不安を、9割もの人が、理性で打ち消すことができていない。そして、その不安を癒すことができるのは、買いだめ行動だけ、という現状になってしまっているんですよね。


 こうした不安は万国共通ですが、特に日本人には強く出る可能性があります。