その改革の1つに「グループ会社間の異動(職種変更)」がある。丸井グループを中心に、小売り、カード、情報システム、不動産賃貸、証券業務、物流、ビルマネジメントなど12のグループ会社間を異動し、さまざまな職種を経験するというものだ。辞令もあるが、半年ごとの「自己申告制度」で異動希望も出せる。
改革以前は人事異動が同じ職種の中で行われることが多く、成果主義の時代もあった。特にベテラン社員には、バブル期の成功体験を忘れられない者もいて、「仕事のやり方が変えられない」「自分の居場所がなくなるのではないか」などの不安から、異動に抵抗もあっただろう。しかし思い切ってグループ会社に移れば、仕事や組織を新しい視点で見られ、柔軟な考え方ができるようになる。各社の仕事内容紹介イベントの開催や、充実した研修など、職種変更した社員が活躍できる仕組みを整えていった。このように大胆な職種変更が受け入れられ、現在では当たり前のことになっている。
個よりも集団の力が組織を強くする
とはいえ会社も職種も変わるのは転職のようなもの。大きな戸惑いを覚えた1人が横山拓人さん(40代。入社22年目)だ。入社当初はカジュアルな紳士服売り場でジーンズの販売や店舗の販売促進を担当し、丸井グループの経営企画部、人事部を経てM&Cシステムへ異動、グループ全体のデジタル化を推進中だ。
「大学は文系学部ですし、まさかM&Cシステムに異動になるとは思いませんでした。最初は専門用語を理解できず、わからないことだらけ。でも、そのうち自分の役割はシステムの専門家になるのではなく、客観的なユーザー目線を持つこと、そして会社の方向性をしっかりと具現化してイノベーションを起こすことだと自覚しました」
全く畑違いの部署から来た社員も少なくないので、よく話し合い、不安を払拭して積極的に仕事ができるように横山さんがサポート。以前なら、リーダーの自分が何でも率先して仕事をやらなければいけないという気持ちが強かったが、今はチームの力で会社や社会に貢献することの大切さを痛感している。そのチーム力が功を奏して、経済産業省の「攻めのIT経営銘柄2019」に丸井グループが選ばれた。横山さんの苦労や努力が結実しつつある。