“転勤退職”を防ぐ先進的な取り組み

企業側も安易に就業規則を振りかざして転勤を命じれば、優秀な社員の退職リスクをもたらすことになる。近年では転勤による退職を防止するための施策を講じる企業も登場している。

勤務エリアを限定した勤務地限定社員制度の導入も徐々に進んでいる。また、育児・介護や配偶者の転勤などの理由で退職した人を対象に復職を可能にするジョブ・リターン制度を導入する企業も少なくない。例えば帝人は、退職時の事業所に再雇用登録を行うと、10年以内であれば復職可能な制度を導入している。また、同社は社員の配偶者が海外転勤や海外留学で海外に6カ月以上滞在する場合に、同行する社員に最長3年間の休職を可能とする「配偶者海外転勤同行休職制度」も導入している。

2回まで免除する制度も登場

画期的な取り組みもある。SOMPOひまわり生命では、出産、育児、介護、本人または家族の病気などで転居を伴う転勤が一時的にできない場合、免除する「転居転勤免除制度」を導入している。使用回数の上限は2回(40歳以上の社員は1回)。免除期間は1回の申請につき2年間である。制度を利用したことによって賃金が削減されることなく、申請前の水準を継続する。そのほか同社には介護や家族の傷病などの利用で現在の勤務地だと退職せざるを得ない場合に、希望する勤務地での就労を認める「希望勤務地制度」もある。

社員が転勤を嫌がる理由の一つに、家族の事情も考慮されず、突然、いつ戻ってこられるかもわからない形で命じられることだ。同社の転居転勤免除制度はそうした大変さを和らげるための仕組みでもある。

共働き世帯の増加によって、社員にとって転勤は昔以上に生活の困難さを伴う。有無も言わさず一方的に転勤を命じるやり方を続けていると、社員の離職を促すことになりかねない。

前述したようにエン・ジャパンの調査では20%の人が「条件に関係なく拒否する」と言っている。今年(20年)の転勤辞令を受ける人の中には、離職に踏み切る人も出てくるかもしれない。あるいは就業規則違反で解雇した場合、解雇不当で提訴する人が出てくるかもしれない。冒頭に紹介した昨年と同じ現象が起きる可能性もある。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。