日本企業が転勤に寛容な理由

いずれにしても日本では転勤に寛容だが、その背景には「職務の限定がない」日本的雇用システムが関係している。ノースキルの学生を新卒一括採用によって大量に採用し、入社後はジョブローテーションによってさまざまな職務を経験させるなど長期にわたって育成するが、それと配置転換や転勤は一対となっている。実際に転勤などの異動によって経験を積ませて昇進・昇格させる企業も多い。また、社員の側も「自身の成長につながるし、仕事の幅が広がる」と自ら転勤を望む人もいる。

職務を限定して採用する欧米のジョブ型雇用の社会では、職務がなくなれば解雇されるリスクがある一方、雇用契約で決まっている職務が変更されるような転勤の場合は本人の同意が必要となる。しかし、職務の限定がない日本の場合は、担当する職務がなくなっても職種転換によって雇用が保障される(終身雇用)。裁判所もそうした日本的慣習を尊重し、解雇を厳しく制限する一方、転勤命令に対しては、就業規則に書かれているだけで認めるという寛容さを示してきた経緯がある。

転勤を拒否したい人が2割も

実際に転勤のある企業も多い。「正社員(総合職)のほとんどが転勤の可能性がある」と答えた企業が33.7%、「正社員(総合職)でも転勤をする者の範囲は限られている」が27.5%。計61.2%の企業に転勤がある(労働政策研究・研修機構調査、2017年)。

しかし、その一方で近年では転勤を嫌がる人も増えている。エン・ジャパンの「転勤に関する意識調査」(1万539人回答、2019年10月24日)によると、「転勤は退職のきっかけになる」と回答した人が31%、「ややなる」が33%。計64%に上る。ただし、実際に転勤を理由に退職した人は5%にとどまる。

そして「今後、転勤の辞令が出た場合、どう対処しますか」という質問に対して「承諾する」が13%、「条件付きで承諾する」が50%であるが、「条件に関係なく拒否する」と回答した人が19%も存在する。世代別では30代が21%と最も多い。男女別では男性が16%、女性が23%に達している。

2割の人が転勤を拒絶しているのだ。回答者が勤務地限定社員であれば、個別の同意が必要なので転勤を拒否できるが、そうでない人は拒否すれば解雇のリスクもある。

転勤を拒否したい理由3つ

それでもなお転勤を拒否する理由とは何だろうか。条件に関係なく転勤を拒否すると回答した人の理由のトップ3は「配偶者も仕事をしているから」(34%)、「子育てがしづらいから」(34%)、「親の世話・介護がしづらいから」(33%)となっている。

世代別では30代が「配偶者も仕事をしているから」(43%)、「子育てがしづらいから」(46%)が理由の半分を占めている。「親の世話・介護がしづらいから」は40代以上が41%と突出している。男女別では男性が「親の世話・介護がしづらいから」(40%)、女性は「子育てがしづらいから」(37%)が理由のトップを占めている。

昔は専業主婦世帯が多く、子育てを妻に依存する夫も多かったが、今では専業主婦世帯は606万世帯に減少し、共働き世帯が1219万世帯と増えている(2018年)。男女を含めて転勤が子育ての大きな障害になっていることがわかる。加えて親世代の高齢化が男性社員の転勤の障害になってきている現実を浮き彫りにしている。