転勤命令権が認められる4つの要件

使用者に転勤命令権を認める場合は、以下の要件をクリアすればよいことになっている(東亜ペイント事件、最高裁1986年7月14日判決)。

1.就業規則や雇用契約書(労働条件通知書等を含む)に転勤を命じる記載があること
2.転勤命令が、業務上の必要性があること
3.不当な動機・目的で転勤を命じることがないこと
4.労働者に重大な不利益がないこと

一般的な会社の就業規則には「会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることができる」と記載されている(厚生労働省「モデル就業規則」)。雇用契約書に記載されていなくても就業規則に書いてあれば有効とされている。ただし勤務地が決められている「勤務地限定社員」の場合は、使用者は勤務地の範囲外へ転勤を命じる権限がなく、転勤させる場合は労働者の個別の合意が必要になる。

業務上の必要性については「労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など」広範囲に認めている。また、人選の正当性についても、この人でなければダメだというほどの必要性を要求しておらず、「企業の合理的運営に寄与する」程度も十分だ。「不当な動機・目的」とは、労働者に対する報復や退職強要などの目的で転勤を命じることだが、この場合は権利の濫用となり、無効になる。

“重大な不利益”が意味することとは

4の「重大な不利益」とは「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるもの」としている。裁判では高齢の母と保育士の妻、2歳の子どもを抱えた30歳の男性社員が神戸から名古屋への転勤を拒否し、翌年、懲戒解雇されている。最高裁は「家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべきもの」と、懲戒解雇の合理性を認めている。

一方、育児・介護休業法では「労働者の就業場所を変更しようとする場合には、労働者の育児や介護の状況に配慮しなければならない」(26条)という規定がある。その後の裁判所の判決では、精神病の妻や要介護の母の存在が「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」だとして、転勤が権利の濫用に当たると判断した事例もある。