キャリアは自分の思いだけでは作れない
「あの時もし黒字に転換していなかったら、自分の首を心配しながら産休に入っていたと思います。年齢的に、仕事を優先して出産は後回しにするなんて選択肢はなかったので、安心して休みに入れて本当に幸運でした」
不本意な異動は評価を高める機会に変え、世界的不況では今も続く新たな事業領域を開拓──。今のキャリアがあるのは、最大のピンチを最大のチャンスに変えてきたからこそと言えるだろう。つらい時期にもなぜへこたれなかったのか。山本さんは「どんな時も、いい加減には仕事しないと決めていたから」と語る。
嫌だと思っても、常に目の前の仕事には誠実であろうとし、人の期待に応えようとしてきた。そこから少しずつ突破口が開けて、チャンスの糸口が見えてきたのだという。
「やりたくないことにも全力で立ち向かっていれば、いずれやりたい所へ渡る船が見つかると思うんです。キャリアって自分の思いだけでは作れないもの。評価してくれる人の声に耳を傾けて、時には川の流れに身を任せて、与えられた場で全力を尽くす。そうすれば、選択肢は必ず広がっていきます」
泣く泣く異動した部署は今、マイナビブランドの顔として知られるまでになった。毎日キャリアバンクは、社名変更と本社合併を経て「マイナビ紹介事業本部」となり、山本さんはその本部長とマイナビ取締役を兼務する。
社長や取締役は常に最終ジャッジが求められる立場。この立場になると、ダメ出しする人もほめてくれる人もいなくなるため、自分で自分を厳しく評価する能力が必要になるという。若い頃は自分の夢に向かって猛進した山本さんだが、社長を経験して以降、常に頭にあるのは「無私」の2文字だ。
「すべてを自責で考え、私心のない状態になれるかどうか。社長や役員は、そうありたいというマインドがまず問われると思います。『無私』の実現は簡単ではありませんが、責任を持つということの重みをしっかり受け止めながら、自分を成長させていきたいですね」
■役員の素顔に迫るQ&A
Q 好きな言葉
ケ・セラ・セラ、継続は力なり、仕事の報酬は仕事
Q 趣味
洋服のオーダーメイド、家族旅行
「仕事用の戦闘服でもあるスーツをいかにエレガントにするか、友人のデザイナーと相談しながら仕立ててもらっています」
Q 愛読書
『日月抄』白洲 正子
『梅原猛、日本仏教をゆく』梅原 猛
Q Favorite Item
スカーフ、セカンドバッグ
「スカーフは取締役就任時にクライアントでもある恩師からいただいたもの。セカンドバッグは職場用で社内各所への移動や近場への外出時に重宝しています」
文=辻村 洋子
1994年、毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ)入社。採用コンサルティング営業、出版広告営業、編集職を経て新設のキャリアバンク事業部に異動。2007年、同部が分社化して毎日キャリアバンクとなり、代表取締役社長に就任。12年、マイナビとの統合に伴い執行役員就任。16年より現職。