ある実験が示す男女不平等の現実
しかし、男女は本当に不平等な状態にあるのでしょうか。残念ながらそうであるといわざるをえません。例として、2012年のアメリカの実験を紹介しましょう。まったく同じ履歴書の名前のみをJohn(男性名)かJennifer(女性名)かに変え、多数の大学のラボマネジャーに応募するという実験です。同じ履歴書であるにもかかわらず、男性名の方が高い評価を受け、年収も男性名の方が4000ドル高く提示されるという結果になりました。この実験は、女性というだけで機会が制限されることを端的に示しています。
さらに、家事・育児・介護などの仕事との両立にあたって負担となるケア役割の女性への偏り、また配属部署や任される仕事内容の男女差、その結果として技能形成や昇進にも男女での偏りがあると指摘されています。
202030は、このように男女で不均等に配置された条件を埋めるための暫定的な措置であり、逆差別とはいえません。「男性が不利になるのでは」との意見もありますが、これまで男女で異なっていたスタート地点をそろえたり、片方にのみ多く置かれていた障害物を取り除いたりすることで、両者が対等に参加できるようにするための取り組みととらえるのが適切でしょう。
なぜ30%をめざすのか
不平等を是正する手段は他にもありますが、ポジティブ・アクションには独自の特長があります。まず、即効性がある点。次に、不平等を生みだす環境そのものを変えていける点です。202030では、女性管理職が増えることで企業の男性中心主義的な体質自体が変わり、女性も働きやすい環境が整うことが期待されています。もちろん、女性が少々増えただけでは環境を変えるほどの影響力になりません。202030がめざす「30%」とは、影響力が確保される最低限の割合であるといわれています。ポジティブ・アクションはすぐに効果があらわれるだけでなく、不平等の根本的解決にもつながっていく施策であるといえるでしょう。
202030によって女性管理職が増えることは、企業活動の妨げになるでしょうか。経済産業省の調査では、女性管理職比率が高い企業に利益率が高い傾向がみられました。この結果の分析は慎重に行わなければなりませんが、少なくとも女性の登用が生産性を低下させるわけではない、ということはいえそうです。
他の国々でも取り組みは進んでいます。ノルウェー政府は、2002年に大企業の取締役会の一定数を女性とすることを義務づけるクォータ制を導入しました。政府からの依頼で長年調査を行ってきた企業多様性センターのマリット・ホエルは、導入によってビジネス面での問題は起こっていないと述べ、「女性が働くことや、男性も仕事と家庭を両立させることが当たり前になった。出生率もトップクラスになった」と結果を評価しています。このように、すでにポジティブ・アクションが実践されている国も多くあります。