「もっと家族と過ごしたい。もっと心に余裕ある生活がしたい」。そんなパートナーの強い希望で、スウェーデンへ家族3人で移住したのはエッセイ『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』の著者・久山葉子さん。日本で共働きをしていたころは「仕事も育児も中途半端」という思いから自己嫌悪に陥る毎日をおくっていたという彼女が、「親になっても、自分のやりたい仕事を週に四十時間やる権利がある」と断言できるように変わった、共働き子育て家族に優しいスウェーデンでの暮らしとは? 移住してすぐの頃から仕事が軌道にのるまでの様子を一部抜粋し、スウェーデンの“共働き文化”の一端に触れます。

※本稿は著者・久山葉子『スウェーデンの保育園に待機児童はいない 移住して分かった子育てに優しい社会の暮らし』(東京創元社)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/alvarez)

スウェーデンに移住…“専業主婦”という概念が存在しない

カルチャーショックと育児ノイローゼとホームシックに交互に見舞われ続けた移住当初の三ヶ月。真冬で暗いせいもあり、気分はどん底まで落ち込んだ。それにさらに拍車をかけたのが、「スウェーデンで仕事が見つかるのだろうか」という不安だった。

そもそも“共働きに優しい社会だから”という理由で生活の拠点をスウェーデンに移したのだ。確かに夫は毎日五時ぴったりに会社を出て、その十五分後には家に帰ってきている。東京にいたころとは比べ物にならないほど家族で過ごす時間が増えたし、余裕も生まれた。本当にありがたいことだ。しかしわたしの仕事が見つからなければ、肝心の“共働き”にはならない。

日本にいれば、「引っ越したばかりだし、子供も小さいし、しばらくは専業主婦でもいいか」と思えたかもしれない。しかしここは昼間子供を遊ばせる場所が少なすぎるし、昼間に集えるような専業主婦の友達もいない。わたしがこの街の出身だったとしても友達はみんな昼間働いているだろう。

それに加えて、なんだか肩身が狭いのだ。そもそも専業主婦という概念からして存在せず、仕事をしていない人は性別や子供の有無に関係なく、“失業者”という肩書きになってしまう。税金を払ってなんぼのこの社会では、税金を払わずに社会保障制度を利用しているというだけで申し訳ない気持ちになるのだ。