経営と現場の壁を取り払う
——もう1つの改革が、社長就任時にメッセージを発した「社内に存在する3つの壁を取り払う」ことでした。「経営と現場の壁」を取り払うためにどんなことを行ったのですか?
【菊地】社長に就任してからは、ロイヤルホストや天丼てんやなどを1店舗ずつ一人で訪ねていき、現場の声を聴くことに努めました。店長会議などの場では、彼らはまわりに気遣いして、本音を言ってくれません。そうした対話から、各店舗の状況やどういう支援が必要なのか、ということがわかってきました。
翌年の2011年から「従業員向けの決算説明会」を始めました。株主というステークホルダーに対しては決算説明会という形で、きちんと話をする機会があります。それと同じように、従業員というステークホルダーに対しても説明をする場をつくることにしました。直近の決算の概要と事業戦略の方向性を説明してみると、「会社の状況が非常によく分かりました」という声とともに「ぜひ店舗の従業員にも聞かせたい」という要望が寄せられました。開催回数は年々増加し、2016年には全国31カ所で開催し1900人が集まりました。その際に従業員から提出してもらう質問にはすべて目を通し、個別にメールで回答してきました。従業員とこうしたやり取りを続けるうちに、ある問題が浮かび上がってきたのです。決算書の中には、ROA(総資本利益率)やROE(株主資本利益率)といった用語も出てきます。例えば「株主はROEを重視しています」と説明しても「ROEって何?」という人も少なくなかった。そこで、こうした専門用語がなぜ重要なのかという背景を教える機会を作らなければと思って、今度は「経営塾」を始めたんです。
——社内で「経営塾」を始めた理由を、もう少し詳しく教えてください。
【菊地】私のなかでは3つ狙いがあります。1つは時間軸と空間軸という言い方をしているのですが、ロイヤルグループの経営事情からすると、各事業の特性を考慮し、時間をかけて、企業の価値を高めていくことになります。ステークホルダーである株主、社員に対して、いまはこの事業に重点投資をしますとか、このタイミングで利益を還元します、というやり方を理解してもらわないといけない。関係者の利害を調整し、全体として最大の効果が出る方向へ進みたい。それを丁寧に説明する場としての「経営塾」です。
2つ目はバランスシート、経営の数字を理解してもらうためです。お店の店長クラスが見ているのは、売り上げと営業利益です。しかし、現在のようにデフレが続いて資産価格が下がっていく時代には、ファイナンス的思考を持ちバランスシートを意識した、経営判断をすることがとても大切なんです。将来、経営陣のメンバーになったときに、会社の判断を誤らないように、経営の数字の読み方、考え方を身に付けてもらう場としての「経営塾」です。
3つ目はステークホルダー経営時代のいま、株主がなにを経営評価の指標としてみているのか、そのためにどういう経営をして指標をクリアするのか。そのことを理解する場としての「経営塾」です。
2011年から始めて、受講者は延べ900人になりました。継続受講者もいて、アンケートに寄せられる意見、質問のレベルが高くなってきたのを実感しています。