部下を追い詰めてしまったマネジャー1年目
当時、部下だった男性はかなり年上の英語圏出身者で業界経験も長かった。もっと彼の意見を聞き、自分の失敗談も織り交ぜながら指導したらよかったのかもしれないが、週一回の面談の度、「これは○%落ちているけれど、何が原因なのか?」などと厳しく詰問していた。すると思いがけず、その男性部下は「I don’t know……」と目を潤ませ、声を詰まらせたのだ。
「そのときに初めて気づきました。私自身も自分の中で壁をつくり、部下に舐められたくないという気持ちが強かったんですね。自分の話す英語もネーティブではなく、たぶん子どもが言っているように聞こえてしまうので、ならば数字やロジックでいこうと。感情抜きで論理的に指導することに徹するあまり、相手は責められているように感じ、必要以上に追い詰めてしまったのだと気づいたんです」
その後、社外でランチを共にして詫びると、自分がどういう気持ちで接しているかを正直に話した。すると心を開いてくれた部下にも、自信を持てず、繊細な面があるのだと知った。磯井さんはそんな彼の強みは何か、どうしたら活かせるのかを考え、自分も一緒にクライアントを訪問してサポートする。彼とは仕事以外の話もできるようになったという。
「マネジャーだからちゃんとしてなきゃいけない、いつも的確な指導をブレなくしなければと気負っていたけれど、自分の失敗談も話すようにしました。私も入った頃はこういうミスをしてマネジャーに怒られたとか、本当にいろいろありますけど(笑)」
マネジャーの役割は、ユニークな個性も最大限に伸ばすこと
社内にはメンタープログラムがあり、自分が所属するチーム以外の先輩にメンターを頼むことができる。利害関係のない立場でアドバイスをもらえることで安心感があり、磯井さんも管理職として直面する課題を一つずつ克服してきた。そうして部下や自分自身とも向き合いながら、自社で取り組んできたのがダイバーシティ推進の活動だ。
働く女性のロールモデルとして、他の女性社員から日常的に相談を受けることが多い。20代の女性が多いので、自身の経験を基にキャリア形成のアドバイスを行う。またワーキングマザーからは仕事との両立に悩む声が多く、時短など働き方の工夫も勧めてきた。
一方、男性でも子育てと両立する社員がいる。さらにLGBTの当事者として啓蒙活動に力を入れる上司に憧れ、入社したという部下もいた。多国籍な社風の下、多種多様な人材を活かすマネジメントを取り入れてきた。
「まずはマネジャーが固定観念を外すことが大切。例えば、当たり前のように『何で出来ないの?』と思ってしまうことも、当人にすれば上司がなぜイラっとしているのか気づかないことがある。日本人は『頑張って!』と安易に言いがちですが、部下にとってはこの点はできているけれど、ここはもう少しやってほしいと具体的に言わないと伝わらない。そしてできたことに対しては皆の前で褒めることが自信につながります。個人のバックグラウンドや能力に応じて、ユニークな個性も最大限に伸ばすことが課題ですね」