“クリエーティブな脳”は作れるか

では「クリエーティブな脳」は、作れるのでしょうか?

近年、頭に付けた電極を通して脳に微弱電流を流す、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)と呼ばれる脳刺激技術を用いて、計算や言葉の流ちょう性から精神疾患治療まで、人のさまざまな認知に関わる機能を向上させる手法があります。最近の研究で「前頭前野の一部にこの刺激を行うと創造性が上がる」という報告がされています。

他にも身近で面白い実験があります。3つほど紹介しましょう。1つ目は、被験者を散らかった部屋と整理整頓されている部屋に分け、創造性に関するテストを行うという実験。その結果、散らかった部屋でテストを受けた人の方が、整理整頓された部屋の人より創造性が高いという結果が出ました。モノが片づいているとき、人は規範に固執しがちになり、散らかっていると規範から自由になりクリエーティブな発想が出やすいという解釈がされています。

次に作業をしている最中に、作業を行う上での何かしらの障害があった方がクリエーティブな発想が生まれやすいという研究報告。最後に、批判されるなど不幸な環境にいる時の方が、肯定的な環境にいる時よりも創造性が高くなるというものです。

人は逆境において能力を発揮できる

もちろん、汚い部屋を肯定したり、困難な状況に身を置くことで創造力が上がると啓蒙しているわけでは決してありません。ただ、悲観的な感情があることや不遇な環境に置かれていることが、驚くような利点をもたらすことがあることが科学的に実証されているのです。

例えば、雨の日に暗くて悲しい音楽を流していた時の方が、晴れの日に陽気な曲を流していた時よりも記憶力が高くなっていることが報告されていますし、生死にまつわる映像を見て悲観的な気分になっている被験者の方が、うわさ話やステレオタイプに左右されずに、情報を正確に判断できることが報告されています。怒りや悲しみは、要求度の高い状況に最も対処しやすい情報処理戦略を発達させるため、そのような結果が表れたと解釈されています。

作家や芸術家の生涯を調べたイギリスの研究では、成功を収めた人は、一般の人に比べてうつ病の罹患率が通常の人の8倍に上っていたことも明らかになっています。優れた作品を生み出す考え方は、多くの場合、苦悩や悲観と不可分なのかもしれません。

日本には「出る杭は打たれる」という言葉があります。今の時代、女性の活躍が推進される一方で、「逆差別」などという無責任な言葉が生まれ、社会の中で女性が目立った活躍をすると、それに対し無神経な言葉の暴力、嫌がらせまがいの言動が投げかけられることも少なくありません。しかし絶えず理不尽な扱いをされ、心が折れそうになったとしても、逆境にいるからこそ、より能力が発揮できると考えることもできます。厳しい状況を自分のチャンスと捉え、時代を切り開いていく女性が増えていくと、女性が活躍しやすい未来を作ることができるかもしれません。

参考文献
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