すでにあるものを結び付ける力

スティーブ・ジョブズは、「クリエーティビティーとはすでにあることをつないでいくこと。クリエーティブな人たちはすでにわかっている、知っているけど、やれていないことを提供できる」と言っています。実際、子供が遊んでいる場面を見ていると、「洗濯バサミにそんな使い方があったとは」など、通常の大人では思いもよらないことをしているのに驚くことがありますし、「主婦が考案する〇〇」などとして大ヒットする商品や新サービスなどは、身近なものをうまく組み合わせただけなのに、目からうろこが落ちるほど便利だったりします。

この「結び付け」は簡単なようで非常に難しいにもかかわらず、創造力、クリエーティビティーに優れた人というのが多く存在し、その人たちが注目を得ていることをわれわれは知っています。では、そのような人は特殊な脳を持っているのでしょうか。

創造力の決め手は3つの脳のネットワーク

被験者163人に、MRIの中で発散的思考(示された物の、新しく普通でない使い道を発想するタスク)をしてもらい、回答のクリエーティビティーについて点数を付けた実験があります。その結果、点数が高い人たちは、既にクリエーティブな趣味(芸術品作りなど)を持っていたり、科学におけるクリエーティビティーの高さを示すような経歴を持っていたりすることがわかりました。

さらに、クリエーティビティーの点数が高い人たちは、3つの脳のネットワークの接続度合いが強いこともわかりました(図表1)。

※出典:Roger E. Beaty et al. PNAS 2018;115:5:1087-1092

1つ目のネットワークは、帯状回後部を含む「デフォルト・モード・ネットワーク(Default mode network)」で、何もせずに安静にしている時に特徴的な働きをするネットワークです。このネットワークは、空想に思いを巡らすときや、白昼夢を見るときなどにも活動的になるといわれ、独創的なアイデアを考えつくためのブレーンストーミングで重要な役割を果たすと考えられています。

2つ目は背外側前頭前野などを含む「実行機能ネットワーク(Executive control network)」で、思い描くアイデアを実行するときに活動する脳のネットワークです。クリエーティブなアイデアが実際に機能するかどうかを評価し、また目標に合わせて修正を加えたりする上で重要になります。

3つ目は島皮質などを含む「顕著性ネットワーク(Salience Network)」です。「デフォルト・モード・ネットワーク」でアイデアを生成し、「実行機能ネットワーク」でのアイデア評価を行う際、その2つのネットワークを切り替えるスイッチのような役割があるとされています。