飲食・小売業界の“寝た子を起こすな”戦術

パート・アルバイトが多く働く飲食・小売業界では、“寝た子を起こすな”戦術と呼ばれている。法律で決められた労働者の権利をあえて教えずに、たとえばアルバイトが「有休ってあるんですか?」と訊いてきたときに初めて「あるよ」と言う。中には「うちの会社には有休なんてないよ」というとんでもない経営者もいる。

フルタイム勤務の場合は入社日から6カ月後に10日の有休の権利が自動的に発生するが、パートは出勤日によって異なる。所定労働時間が週30時間未満で、かつ週4日以下の場合に付与される有休日数は図表1の通りである。

週2日のパート勤務であっても、年間73日以上働く見込みがあれば、6カ月後に3日の有休が発生する。だが、このことを知らない人が多いかもしれない。

有休を取らせない問題経営者も

ところで今回の年5日の有休取得義務づけは、有休付与日数が年10日未満の人は対象にならない。だが、週4日勤務の人は3年6カ月目で取得義務の対象となる10日になる。週3日勤務の人も5年6カ月目で10日になる。パートの中には5年以上の長期勤務者も多い。

じつは取得義務の対象者のパートであっても、脱法的行為に走る経営者がでることが懸念されている。前出の社会保険労務士はこう指摘する。

「たとえば月、水、金曜日の週3日勤務の人であれば、出勤日以外の火曜日の1日を有給日とし、消化したことにするのです。実際にそれができるか相談を受けたことがあります。実際の勤務日を有休にすべきであり、休日を増やすという法の趣旨に反してダメですと言いましたが、パートはそれぞれに入社日が違いますし、付与日数も違う。非正規社員の多い会社は私たちでも細かくチェックすることはできません。1日でもパートを休ませたくない企業はそうするかもしれません」

出勤日ではない日を勝手に有休扱いにして、労働基準監督署が調査に入っても「彼女はこの通りちゃんと有休を取っています」と記録を見せる。何も知らないのはパートだけということになりかねない。会社任せにしないで自分の有休日数を確認すること、10日以上付与されているのに5日取得していなければ、労基署に告発すべきだろう。