起業を後押しした夫の言葉

そんな井出さんが飯田さんに呼び出されたのが、2人目の育休からの復帰する間際だった。

ただお茶でもするのかと思ったら、「料理をビジネスにしたい」と飯田さんがまとめた事業計画書をその場で渡された。そこには、現在のシェアダインの原型となる料理家出張サービスのアイデアが書かれていた。

ワーママ仲間として、料理に苦労してきた自分たちが、社会の課題を解決できたら――と心が動いた。だが、飯田さんの事業計画書の中身は、あれもこれも盛り込み過ぎているし、個人向けだと単価設定も高くなるため、ビジネスにするには正直このままでは難しいという気持ちもあった。

それでも、社会課題の解決をしたいという思いは、さかのぼれば学生の頃から井出さんが持っていた気持ちでもあった。合流するか悩んでいたころ、井出さんの夫は、「海外では失敗するほど信用がつき、お金も貸してもらえるようになる」と彼なりに背中を押してくれたという。

4月に会社に戻ることにしたものの、同年秋には飯田さんと合流し、先の見えない起業家の世界に飛び込んだ。飯田さん、そして井出さんと同じように会社を辞めて合流した仲間と3人で計800万円の元手で、サービス作りを開始した。

何もない状態からのスタート

しかし、世の中にないサービスを作るのだから、そこからは手探りの状態だ。運よくビジネスコンテストでアクセラレータープログラムに参加することができたのだが、その時点でもホームページすらなく、エンジニアは1人もいなかった。参加してくれる料理家もまだ2人だけで、そもそも社会的にニーズがあるのか検証すらしていない、まさに“何にもない”状態だった。

とりあえず簡易的にホームページを作ったが、料理家とユーザーをマッチングするというアイデアだけが書かれたサイトでは、なかなか信用してもらえない。それでも、とにかく登録してくれる料理家を集めなくてはと、片っ端から料理家にメールを送りまくった。その中で、興味を持ってくれた数人が返信してくれて、なんとか5~6人の料理家を確保することができた。