「起業」のイメージが180度変わった

井出さん自身のライフワークバランスはというと、前職のほうが余裕はあったとはいうものの、現在も17時には職場を出て、20時までは仕事をしないという、自分らしい子育てを続けている。シェアダインのサービスを自身でも利用しているが、「今日はお料理のお姉さんが来ているね」と子どもも喜ぶそうだ。

料理の専門家に、作り方のコツを教えてもらえる。

起業する前は失敗を恐れていた彼女だったが、起業してから「起業」のイメージそのものが変わったのだという。

「料理家の方が来てくれることで時間の余裕ができるだけでなく、『こういう工夫をしたらおいしくなりますよ』といったアドバイスを毎回受けられるんです。料理ってその人の家庭にしかないものだったのが、サービスを通じて他人の体験を共有してもらえることの豊かさを感じています」と井出さんは言う。

「支援プログラムや横のつながりでの情報共有もあるし、何より最近では大企業もスタートアップとすぐに会ってくれる環境ができてきたため、事業が『すぐダメになる』という環境ではありません。それに、私たちはチームで起業したため、悩んだ時に話し合える仲間がいてとても心強かった。役割分担もできるのも大きいですね。たとえば、飯田はビジョナリーであるため、妄想を落ち着ける役回りが私とか(笑)」

また、自分の殻を破るチャンスにもなる。彼女の場合、かつては苦手だった他人への説得や人前で話すようなことも、今は自分がやらないと誰もやってくれないということもあり、何でもこなせるようになった。大勢の前でのピッチもお手の物だ。「人前に立って伝えることでレビューが返ってきます。するとまた『伝えたい価値』がたくさん生まれてくる。実現したい世界が広がっていることも実感できるんです」。

「ママになったら、『シェアダインは登録した?』と言われるくらい浸透させていきたい」と目標を語る井出さん。「日本の食卓のプラットフォーム」を目指す、ママ起業家の挑戦はまだ始まったばかりだ。

井出 有希(いで・ゆき)
シェアダイン 共同代表
1978年、高知県生まれ。2000年、東京大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。09年アライアンス・バーンスタイン、12年ボストン・コンサルティングを経て17年シェアダイン創業。

文=藍羽 笑生