▼PART 2●60代の壁
定年・熟年離婚・子の結婚・親の介護
世界一周旅行、スポーツカーにゴルフ……
50代の壁を無事に越えられたとしても、定年退職して仕事を辞めると新たな壁が現れる。老後に起きる「5大破綻」のうち、60代でまず気をつけたいのが「イベント破綻」だ。
「定年退職しても、この年代はまだまだ体力もあるので元気です。毎日、会社に行かなくなって暇をもてあましているうえに、退職金というまとまったお金が入るため、気が大きくなって100万円単位のお金をパーッとイベントに使ってしまうのです」
退職記念に夫婦で世界一周旅行するのに1000万円、憧れのスポーツカーに500万円、家で快適に過ごすためのリフォームに300万円。こうした後先考えないお金の使い方をすることで、2000万~3000万円もの退職金があっという間になくなり、イベント破綻してしまうのだ。ゴルフや登山、日帰り旅行などの趣味のお金もばかにならない。1回の費用は数千~数万円でも、毎日のように出かけていれば相当な額になるはずだ。
もうひとつ、60代で陥りがちなのが「子孫破綻」だ。折しも、国は景気対策の一環として、住宅資金や教育資金、結婚・子育て資金として贈与に対する優遇税制を設けている。マイホームの取得などの資金は700万円(省エネ住宅以外)、教育資金は1500万円(学校教育費以外は500万円)、結婚・子育て資金は1000万円までは贈与税がかからない(18年10月現在)。
だが、いったん贈与したお金は簡単に取り戻すことはできない。「老後の面倒は見てもらえるのでは」という淡い期待をして、子どもの結婚や住宅購入、孫の教育費などに援助しすぎて、自分たちの生活がままならなくなる人がいる。子どもはお金をもらえば忘れてしまうし、経済的余裕もないことを覚えておきたい。
そして、60代の3つめの壁が「浪費破綻」だ。赤字を出さない健全家計の大前提は、収入の範囲内で暮らしていくことだ。しかし、老後はその基本がままならなくなる。
「定年退職後のおもな収入は公的年金ですが、その金額は現役世代の収入の半分から3分の1程度になるのが一般的です。でも、若いうちから続けてきた生活水準は簡単には落とせません。その結果、年金だけでは生活できないので、高齢世帯の多くが貯蓄を切り崩しながら生活しているのです」
総務省統計局の「家計調査報告(家計収支編)」(17年)によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の1カ月の実収入は20万9189円なのに対して、毎月5万4519円の不足分を出している。赤字分は、貯蓄を切り崩して生活していることになるが、その額は1年で約65万円、10年で約650万円、20年で約1300万円になる。