「家庭あっての仕事」という、思いが働き方改革の源泉
一方、男性社員はどうだろうか。金融機関担当のシステムズエンジニア、高瀬純平さんはいわゆる「イクメン」。妻の単身海外赴任に伴って、1人で子育てをした経験を持つ。
「入社直後に妻の海外赴任が決まり、当時はかなり悩みました。海外勤務は彼女の長年の夢だったので、止めることは考えられなかった。でも、入社1年めでは退職してついていくわけにもいかず、自分は日本に残ろうと決めました」
そのとき子どもはまだ乳幼児。数カ月は彼が、それ以外の期間は妻が、それぞれ1人で子育てをした。やがて彼女の赴任先が他の国に変わり、現地での暮らしが落ち着くまで子どもは再度高瀬さんのもとに。
それから約1年間、1人で育児に奮闘する日々が続いた。朝は保育園に送り届けて日中は仕事に奔走、夜には子どもを迎えに行って食事の支度をし、風呂に入れて寝かしつける。さぞ大変だっただろうが、本人は「いや、楽しかったですよ」と笑う。「もともと育児には積極的に関わりたかったし、料理も好きなので苦にはなりませんでした。同僚の応援や、友人とのSNSでのやり取りも支えになりましたね」
最初の育児の際には、上司に事情を話して自宅勤務を増やしたいと相談。上司は特に驚くこともなく、すんなり了承してくれた。以降は、事前にスケジュールを調整する、報告を密にするなどを心がけながら、育児と仕事の両立を図ったという。
「社員はみな『家庭あっての仕事』という思いを共有しているんです。共働き家庭も多いので、困ったときはお互いさまという感覚ですね」
かつては日本企業で働いていたこともある。良い面もあったが、今の環境に比べると「会社にいることが大事という雰囲気があった」と振り返る。みなが気持ちよく効率的に働くには、社員を縛るよりやりたいことをのびのびやらせたほうがいい。これからは、そうした会社こそ成長していけるのではないだろうか。
今、子どもは海外の妻のもとにいる。休みのたびに行き来はできるものの、やはり家族とは一緒に暮らしたい。希望する国へ赴任できる制度はまだないが、高瀬さんは「ないなら自分でつくろうかな」と前向きだ。同社の企業風土なら、実現する可能性は大いにあるだろう。
ヴイエムウェアの場合、「自由な働き方」は制度づくりや実践の段階を超えて、すでに定着の域に入っているようだ。ロバートソンさんは「日本企業の多くは働き方を改革したいと望んでいる。当社を事例として、よりよい働き方を日本社会全体に広げていきたい」と語る。
同社にはそれを実現する製品群があり、導入する日本企業も増えつつある。会社という場所に縛られない働き方が当たり前になる日も、そう遠くはないのかもしれない。
撮影=石橋素行