完全独学で編み出したオリジナルレシピ

自分の店を持つなら、飴よりもっと深い味わいの菓子をつくりたい。マシュマロか? 綿菓子か?……と模索するなかで、乳製品を使うキャラメルにピンときた前原さんは、独学でレシピ開発に挑戦し始めた。20代半ばのことだ。

「おいしさ以前に、最初はキャラメルが固まる原理さえわからなかったので、理科の実験状態でした」

キャラメルのつくり方をおおざっぱに説明すると、煮詰めた砂糖と、温めた乳製品を合わせてさらに煮詰め、ひと晩冷やし固めればできあがる。前原さんは、試作するたびに素材の配合を微調整し、材料を合わせるタイミングを微妙に変え、煮詰める時間を短くしたり長くしたり。

1歩進んで2歩下がるような試行錯誤を2年間、自宅で毎日のように繰り返して、ようやく「これだ」と納得いくレシピにたどりついたという。最初の1年は飴職人を続けながら、次の1年は貯金を切り崩しながら。

途中でくじけたこともあったのではなかろうか。

「蕁麻疹が出るほど不安な時期もありましたし、常に心は揺れていました。自分が正しい道に進んでいるのか、間違った方法を一生懸命試しているのではないのかと」

そんな不安を抱えながらも諦めなかったのは、「人に喜んでもらいたい」というシンプルな気持ちが原動力になっていたからだと前原さんは言う。人は甘いものを食べると幸せな気分になれる。そういうものを自分の店で売ると決めて、ひたむきに努力した先につかんだオリジナルレシピだった。