なぜ、いまアジアより「欧米」なのか?

【酒井】現在、興味をもっている国や企業はありますか?

【大西】ここ10年くらい、マーケットという話をすると、東南アジアという話が出ますよね。ほかの業界の方と話していても「東南アジアの将来性」という言葉をよく耳にします。

もちろん成長という意味ではそれは分かるのですが、逆に私はもう一度「欧米に注目したい」という思いがあります。やはり欧米は非常に勉強になる。文化的な蓄積が分厚いという感覚でしょうか。いまも年に一度はニューヨークを訪れないと新しい感覚が鈍る気がしますし、ヨーロッパは歴史的な建造物や美術館を訪れ、文化やアートに触れる度に感性が磨かれている気がします。

【酒井】日本の大企業経営者の多くはマスプロダクトをイメージしていて、量が売れる国がマーケットとしてよい国という発想がありますね。対して大西さんは大量に売るというより付加価値のついた質のよいものを提供したい思いが強いように思います。

いま、日本はGDPで世界第3位。中国が台頭してはいるものの、対米、対中など多くの国に対して貿易黒字になっています。しかし、フランス、イタリアに対してだけはずっと貿易赤字です。

なぜなら、日本人はフランス、イタリアのファッション、とりわけ鞄と靴が圧倒的に好きで購入する。その購入を支えているのは、それを選ぶ日本人の感性なわけです。そういう意味で言えば、ヨーロッパの成熟したブランドのようなものが、そろそろ日本に出てきてもいいのではないでしょうか。

【大西】まったく同感ですね。世界の名だたるラグジュアリーのブランドは、ほぼすべてヨーロッパで生まれています。欧州メゾンの最大の特徴は、厳選された素材のすばらしさです。その欧州メゾンが実は日本の地方の産地とかなり大きな取引をしていて、日本のテキスタイルなどの素材がかなり流れているんです。私たちは自分たちの足下に良質の素材があるのに、それを活かせていないわけです。

【酒井】日本の製品は機能や性能は一流ですが、そこにプラスした艶のような感性の部分については、まだまだフランスやイタリアに学ぶところが大きそうですね。

【大西】日本独自のいいものもありますが、そういう感性的なものは経済も含めてもう少し成熟する余地はあるのかもしれませんね。

【酒井】いま大西さんが身につけられているポケットチーフも日本産のものですよね。

【大西】はい。これは繊維産地、石川県の会社がつくったもので、世界一軽くて薄い織物なんです。

たとえばこのポケットチーフのように、素材からものづくり、ブランディングまでオールジャパンで作り上げる、ジャパンプレミアムみたいなもの、世界から「さすがジャパン」と言われるようなものをつくりたいと思っていました。

三越伊勢丹でもいくつかのオリジナルブランドが誕生しましたが、いまでも「オールジャパンの質のよいものづくりを実現させたい」という思いがあります。