ファイナンシャルプランナー 井戸美枝さんからの提言

▼働く女性の家事・育児負担を減らす社会の環境を整えながら議論を進めるべきです

主婦が就業時間を制限する原因のひとつとして「配偶者控除」があげられています。2017年の税制改正案では、配偶者の控除条件が103万円から150万円に引き上げられました。この改正で103万円を境にした就業調整の心理的な動機はなくなりますが、年収が130万円以上(大企業105.6万円以上)になると健康保険や厚生年金の保険料を支払わなくてはならず、依然として就業時間を調整する「壁」は残ります。

また、税制ではありませんが、年収103万円(ないしは130万円)以下の配偶者がいる社員に「配偶者手当」を支給している企業もあります。

こうした控除や手当を廃止すれば女性は働くのかというとそう簡単な話ではありません。

厚生労働省によると、労働者全体を平均して見たときの男女間賃金格差は、男性を100とすると女性は71.3(13年時点)。先進諸外国と比較してもその格差は大きい状況です。

この賃金格差の原因のひとつに、出産や子育てによる退職・休職で女性がキャリアを積み上げる機会を逸している可能性があります。女性がキャリアを積みやすくなる企業への支援(動機付け)や、待機児童の解消といった対策を同時に進めていく必要があります。

また、家事や育児といった無償労働の負担をそのままに労働市場へ引っ張りだせば、過度の負担が生じます。主婦に有償労働を促すのであれば、パートナーと家事や育児を分担しなければなりません。

女性が活躍する社会(ここでは女性の有償労働の時間を増やすこととします)を実現させるためには、「女性が働くことが損ではない」「過度な負担をさせない」といった社会の環境を整えながら、配偶者控除などの税制について議論を進めていくべきです。

撮影=市来朋久