配偶者控除廃止の議論が盛り上がりましたが、廃止ではなく、控除条件が103万円から150万円に引き上げられることに。働く女性たち4人が、配偶者控除はどうなるべきか話し合います。
鈴木美生子さん●FCAジャパン勤務。37歳。小1の子どもを育てながらフルタイムで働く。配偶者控除は受けたことがない。
橋本幸子さん●通信会社勤務。44歳。10年前に出産し、2年間の育児休業を取得した際、配偶者控除を受けた経験あり。
二十軒悠里さん●IT系企業勤務。35歳。結婚しているが子どもはいないので仕事にまい進。配偶者控除は受けたことがない。
小熊恵子さん●料理講師、野菜ソムリエプロ、ラジオ体操指導士として活躍。56歳。5児の母。103万円の壁を越えたことがない。
※働きながら学ぶ女性のためのビジネススクール、日本女子経営大学院の修了生4人にお集まりいただきました。

控除廃止の見送りはスッキリしない!

【橋本】「政府が配偶者控除の廃止を検討」というニュースを聞いたときには、構造的な税制改革が行われるという期待があったんです。それが、だんだんトーンダウンし、結局「控除限度額を150万円まで引き上げる」となってしまったのは、お茶を濁された感じで、すごく残念ですね。

(左)鈴木美生子さん(右)橋本幸子さん

【二十軒】私も、何かごまかされた感じがしています。「女性が輝く社会」「一億総活躍」という目標からきている改革のはずなのに、この結果はすっきりしない。専業主婦の人たちの反発とかあったんでしょうか。

【小熊】私は結婚して30年以上、ずっと配偶者控除を受けてきました。今回、主婦層の反発があったかはわかりませんけど、限度額を150万円に引き上げても、主婦層の労働意欲が喚起されることは考えにくいのではないでしょうか。周りの主婦仲間に話を聞いても、保育所・学童など、子どもを預ける施設には入れないのに、もっと働けと言われても……という反応です。

【二十軒】そう、女性が働きやすい環境にするには、まず子どもを預けられる場所を増やすことですよね。控除よりも、子育てサポートに力を入れたほうがいいんじゃないかなと思う。「配偶者控除の代わりに夫婦控除を設ける」という案もありましたが、夫婦だけで子どもがいない場合には、意味がないのでは?

【鈴木】私は夫婦控除というのはアリだと思います。少子化対策には、結婚離れを何とかしないと。そのためには、結婚したほうが“お得”というメリットを示すべき。子どもはその後についてくるものだと思います。

【橋本】なるほど(笑)。または、子どものいる家庭を優遇するために、例えば子ども1人ごとに100万円分の控除をするとか。子ども2人なら200万円控除。

【一同】それはすごい!(笑)

夫婦の意識を変える施策も必要?

【二十軒】ただ、配偶者控除が廃止されたとしても、夫婦が平等に働き平等に家事をすることになるのかという疑問も。うちは共働きで収入もあまり変わらないのに私のほうが家事を多くしていて不満に思うこともあります。

【鈴木】うちも夫婦共働きで、小学生の子どもがいますが、夫が稼ぎ頭で忙しい。例えば、夫が学校行事のために何日も休めるかというと、実質的に難しいですね。

【小熊】私は子どもが5人いるので、息子たちが小さい頃、フルタイムで働こうなんて思いませんでした。というか、どうしたって無理ですよ(笑)。

(右)小熊恵子さん

【鈴木】わかります。私は今、仕事と子育ての両立で、あたふたすることが多いので、主婦の人はたいへんな労働をしていると思う。

【橋本】私にも小学生の子どもがいます。残業のときは夫が子どもを見ているので、実感として働きながら子どもを育てるのもそんなにいばらの道ではないと思うんですが、恵まれているほうなのかな。

【小熊】家庭にはいろんな形があるのだから、一つのワクに当てはめようというのはナンセンスですよね。もっとフレキシブルなサポートがあるべきだと思います。

 

平成生まれは価値観が違う

【二十軒】それにしても、配偶者控除を受ける女性が約1500万人もいる事実に驚きました。まだまだ控除廃止が受け入れられる世の中じゃないということなんですよね。まず、女性が働くことへの理解を深めないと……。

二十軒悠里さん

【小熊】その点、うちの子たちを見ていると、平成生まれは違いますよ。夫婦共働きで、うちの息子がご飯をつくっていますから。

【橋本】うちの会社の20代も、夫が料理担当という家庭があります。性役割意識の変革は若い世代が成し遂げるのかも?

【一同】平成生まれに期待(笑)。

【橋本】若い世代をサポートするためにも、政府には社会保険も含めた配偶者控除の見直しを引き続きお願いしたいですね。

 
▼「配偶者控除」に関して

「配偶者控除」について下記により要望いたしますので、よろしくご配意賜りますよう、切にお願い申し上げます。

(1)妻ではなく、子どもがいる世帯をどーんと優遇すべきです
子どもを預けられない環境、家のことは女性がやるべきという風潮の中で、103万円の壁が150万円に変わったところで、女性の働く意欲は高まりません。子どもへの投資、子育てへのサポートを増やすべきです。

(2)もっと働く女性を増やす施策を先に
フルタイムで働く女性が半数に満たない現状で、配偶者控除を廃止しようとしても反発が高まるばかり。先に他の方法で女性がフルで働きやすい環境を整えてから、税制を変えるべきでは。

以上 座談会参加者 一同

ファイナンシャルプランナー 井戸美枝さんからの提言

▼働く女性の家事・育児負担を減らす社会の環境を整えながら議論を進めるべきです

主婦が就業時間を制限する原因のひとつとして「配偶者控除」があげられています。2017年の税制改正案では、配偶者の控除条件が103万円から150万円に引き上げられました。この改正で103万円を境にした就業調整の心理的な動機はなくなりますが、年収が130万円以上(大企業105.6万円以上)になると健康保険や厚生年金の保険料を支払わなくてはならず、依然として就業時間を調整する「壁」は残ります。

また、税制ではありませんが、年収103万円(ないしは130万円)以下の配偶者がいる社員に「配偶者手当」を支給している企業もあります。

こうした控除や手当を廃止すれば女性は働くのかというとそう簡単な話ではありません。

厚生労働省によると、労働者全体を平均して見たときの男女間賃金格差は、男性を100とすると女性は71.3(13年時点)。先進諸外国と比較してもその格差は大きい状況です。

この賃金格差の原因のひとつに、出産や子育てによる退職・休職で女性がキャリアを積み上げる機会を逸している可能性があります。女性がキャリアを積みやすくなる企業への支援(動機付け)や、待機児童の解消といった対策を同時に進めていく必要があります。

また、家事や育児といった無償労働の負担をそのままに労働市場へ引っ張りだせば、過度の負担が生じます。主婦に有償労働を促すのであれば、パートナーと家事や育児を分担しなければなりません。

女性が活躍する社会(ここでは女性の有償労働の時間を増やすこととします)を実現させるためには、「女性が働くことが損ではない」「過度な負担をさせない」といった社会の環境を整えながら、配偶者控除などの税制について議論を進めていくべきです。