同一労働でも賃金は大幅削減

では、70歳まで働ける企業は、どの程度の割合なのだろうか。定年制の廃止を行っている2.7%、定年の引き上げで70歳以上としている1.0%、継続雇用制度(希望者全員+基準該当者)8.1%に加え、「その他の制度で70歳以上まで雇用」が5.1%あり、合計では21.2%となる。5人に1人は70歳まで働ける計算だ。しかし、実態的に70歳まで働いている雇用者がどの程度いるのかは判然としない。

高齢者雇用の状況を都道府県別に見ると、雇用確保措置導入企業割合が高いのは、福井、岐阜、三重、大分の4県で100%となっている。半面、導入割合が低いのは、 千葉98.0%、滋賀98.6%、長崎98.6%、福岡98.8%、沖縄98.8%の順だ。

都道府県別に上位5都道府県と下位5都道府県を表にしてみた。

さて、この統計は残念なことに高年齢者の賃金状況についての調査がない。相場は、定年前の50%が上限というのが多いようだが、最近では、高年齢者の増加により、定年以降の雇用時の賃金を考えて、40代、50代の賃金を引き下げて、その分を定年以降の雇用時の賃金に充当するという企業が増加している。

しかし、この理屈は企業側のエゴでしかない。同一労働が継続されているにも関わらず、理由もなく、賃金の引き下げを行うのは労働契約法違反の可能性がある。労働争議に発展してもおかしくない。

また、定年後の雇用の際には、定年前と同様の仕事を継続するケースが多いにもかかわらず、賃金は大幅に削減されるケースがほとんどだが、これは政府が推進している“同一労働同一賃金”に明らかに反している。

ところが、この賃金問題には、大きな障壁がある。11月3日、東京高裁は定年前と同じ業務なのに賃金を下げられたのは違法だとして起こされた訴訟に対して、「定年後に賃金が引き下げられることは社会的に受け入れられており、一定の合理性がある」との判断を示した。つまり、高裁が“同一労働同一賃金”に高年齢者の雇用延長は当てはまらないと判断したのだ。

つまり、企業側からすれば定年後の雇用は、明らかに“雇ってやっている”というものでしかなく、これを司法も認めているということだろう。確かに、企業組織から見れば、高年齢者が居座ったのでは、人事や組織が活性化しない。「上が閊(つか)えている」という状況だ。

しかし、少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少の一途を辿る中で、高年齢者と女性の活用は、企業にとっても大命題のはず。高年齢者にしてみれば、60歳で年金が満額支給されるのであれば、同じ仕事をしていながら、賃金を大幅に削減されるような状態では働きたくもない、というのが本音だろう。

今後は、定年以降の高年齢者の雇用にあたっては社員とのバランスを取りながら、高年齢者のやる気を惹起するような待遇を提供できるかが大きなポイントとなりそうだ。これを実現できた企業は、少子高齢化の中でも十分な労働力を確保した勝ち組になれるのではないだろうか。

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