いつの間にか店内は、着飾った若い男女でごった返し、ホール全体が大音響に揺れていた。私はふらふらと立ち上がり、ステージの上を見るや唖然とした。なっ、なんと、その熱狂の中心に我がダーリンが、いやいや白いシャツで決め込んだ彼の姿があったのだ! 彼はスポットライトを浴びてキレのある踊りを披露し、客からの歓声を一身に集めていた。私は慌ててカメラを手にとり、客の中へと分け入った。揺れる人波をかき分けてステージ脇まではい出ると、シャッターを切って声援を送り、そしてまたシャッターを切った。昼間の素朴な雰囲気からは想像もつかない踊りっぷり! 夢中になって声をかけ、次に目が覚めたときには宿のベッドの上にいた。ひどい胸焼けと喉の渇きが、厳しい灸を据えてくる。

明け方、男の子たちの肩を借りて宿に戻った記憶はあった。確か、水を買ってきてもらい、玄関の鍵を開けてもらって……。貴重品は? 体を起こすと頭の芯が鈍く痛んだ。カメラも財布も脱ぎ捨てたパンツも、ベッドの周りに落ちていた。床に転がったペットボトルに一滴の水も残っていないことを確かめると、枕に顔を埋めて祈った。“神様、この苦しみからお救いください。もう二度とアルコールには手を出しません。これが最後のお願いです。どうか今回だけは助けてください”

祈りが通じたのか、午後になると吐き気も治まり、ちょうど宿にやってきた彼と外の空気を吸いに出かけた。蒸留酒は回りも早いが、引くときも早くて本当に助かる。そして玄関を出て、強い日差しに打たれたところで、私ははたと思った。そういえば、帽子ってどこいっちゃったんだっけ? 帽子を無くしたことを彼に伝え、昨日のディスコまで連れていってほしいと頼んだ。彼はうなずき、しかしディスコとは逆方向に向かって歩こうとする。そっちじゃなくてディスコへ、と念を押すのだけれど、彼は穏やかにほほ笑むだけで、相変わらず逆方向へと進んでいく。仕方がない。帽子はまた明日にでも探しに行こう。

諦めて歩いていると、しばらくして辺りの景色がすっかり変わっていることに気がついた。繁華街の優麗さとは決して交じり合わない庶民的な住宅街。さらに先へと進むと、家屋の質の低さがいよいよ無視できなくなってきた。ここは一体どこなのか?

彼は一軒の家の前まで来ると、中へと案内してくれた。天井が低く、薄暗くて狭い部屋の中に、簡素なベッドと家具が窮屈そうに並んでいる。その一つに、ディスコ仲間の一人が横たわっていた。めかしこんでいた昨晩とは打って変わって、なんともさえない格好をしている。2人はしばらく話し合っていたが、ベッドの上の彼がため息をついて立ち上がり、タンスの引き出しを引いた瞬間、私は「あっ!」と声を上げた。間違いない。私がハバナで買った迷彩柄の帽子だ。きまり悪そうな彼から帽子を受け取り、お礼を言って家を出た。ディスコで輝いていた彼の姿は、もうそこにはなかった。