制度だけ変えればすむわけではない

さらに日本は女性だけでなく高齢者の活用も遅れています。現在当社の正社員の定年は60歳ですが、そのあとも契約社員としてずっと働いてもらいたいので、そのときの定年は99歳にしようと思っています。現在、当社には70歳以上の方が4人いて、いちばん上の方が74歳。「早く80代の人が来ないかな」と思っているところです。

「時短勤務は罪ではないよ」

ただし、日本一働きやすい会社をつくるには、制度だけ変えればすむわけではありません。自由自在に休みをとれるようにするには、社内の仕事を“見える化”しなければいけない。つまり仕事を個人の職人芸にしてはダメなのです。仕事の内容が一人一人の職人芸になっていると、「その人がいないと仕事が回らない」ということになる。しかし内心では誰しも職人芸にしておきたい。自分の地位を守りたいからです。それを「まあまあ」と心を開かせて“見える化”し、休んでもすぐほかの人に仕事を回せるようにする。あるいはほかの人から仕事を回されても、すぐに自分もこなせるようにする必要があります。

また意識改革も必要です。正当な会社の制度を使っているのに、休んだり早く帰ったりすることに罪悪感を感じるという人は少なくありません。この罪の意識をなくす必要がある。まだまだ途中ですが、経営者が強いリーダーシップをもって呼びかけていけば、いずれ浸透することは間違いありません。

当社は住宅ローンの会社で、これから「住生活プロデュース業」を始める予定です。これはお客様が家を探す段階から、家を買ってローンでお金を払う35年ぐらいのあいだ、必要に応じて融資をしたり、各種サービスや物品が5%から10%安くなるようなお客様の会員組織をつくったりするというものです。うちでお金を借りてくださった方とは、その方が家を手放すまで、一生付き添いたいと思っているのです。ということは、われわれは一人のお客様と40年近いお付き合いをすることになります。それにはうちの社員も末永く働いてもらい、お客様とともに年を取っていくようにしなければいけない。

かつて当社は退職率が20%もありました。20%ということは、5年で全員が入れ替わることになります。そんないつ辞めるかわからないような会社では、お客様のために末永いサービスを考えていこうとは思わないでしょう。それなら安定して末永く働いてもらおうと考えたのです。かといって、ぶら下がり社員じゃ困る。いきいきと長く働いてもらえるようにしたい。

また住宅ローンの手続きは、世の中の消費行動の中で、最もたくさんの書類を必要とするものだと思います。ローンの申し込みだけでなく、生命保険、銀行、不動産会社の書類に始まり、納税証明書や住民票など、山のように書類があり、事務上のミスが許されません。しかし社員の退職率が低ければミスが少なくなります。ミスが少ないとローンの審査のスピードが速い。お客様に早く融資ができて、お客様はうれしい。それから不動産業者との関係も、しょっちゅう担当者が替わっていたら付き合いが続かないから営業力も落ちる。よいことは一つもありません。