また、株式会社の参入組が異口同音に参入障壁と指摘するのが、保育所に対する「社会福祉法人会計基準」の適用と剰余金の使途の制限である。「企業会計基準と社会福祉法人会計基準の会計処理を同時並行でする必要があり、その手間がばかにならない。また、一つの保育所で出た利益は剰余金としてプールして、ほかの保育施設の新設経費としてごく一部を回せるが、株主への配当に充てられない」

全国で165の認可・認証保育所などを運営するJPホールディングスの荻田和宏社長が話す。同社は保育所を実際に運営する子会社からの経営指導料や、各保育所の給食業務の受託料などでの利益を配当の原資に回している。株主から出資を募り、利益を原資に配当で還元するのは株式会社の大原則。主軸の事業で足枷を課せられるのなら、新規参入が増えないのも道理だろう。

雇用形態改善で解決潜在保育士の問題

民営化に対する反論として「質の低下」がよく指摘される。しかし、高品質のサービスを提供して利益をあげ、それを原資に事業を拡大するのが民間企業の原則。「旧国鉄がJRになってサービスの質が低下したかというと、その逆で保育についても同じこと」とジェイコムHDの岡本社長はいう。

その保育の質の点で問題なのが保育士の確保だ。2016年1月の東京都の保育士の有効求人倍率は6.24倍になった。一方、保育士の資格を持ちながら、保育士の職に就かなかったり、離れてしまった“潜在保育士”が全国に70万人以上いる。彼らの活用が保育の質の向上に必要不可欠なのだが、ここでも規制がネックになっている。「認可の要件として保育士を雇用する際に、フルタイムの正規雇用が求められる。しかし、自分も子育て中で、パートタイムなら働きたいという潜在保育士が多い」と語るのは、年間2000人以上の保育士の人材紹介を行うドゥプランニングの鈴木稔社長だ。

同社が2016年4月に潜在保育士を対象にしたアンケート調査によると、復職しない理由の要因として、給与の安さとともに、家庭との両立や勤務時間が希望と合わないことなど、パートタイムなら解決できる要因が上位に並んでいる(図5参照)。また、そうした要因が解決できれば復職を希望する人が、全体の58%を占めている。