保育士の養成課程について疑問視する声もある。いま、保育士の資格を取るには、厚生労働大臣が指定保育士養成施設として指定した大学、短期大学、専修学校を卒業する、各都道府県が実施する保育士試験に合格するか、2通りの道がある。その保育士試験は、一度、社会人を経験したうえで「保育士になりたい」という志を持って挑戦する受験者が多いのだが、その合格率は15年度の全国平均で22.8%。一方、同じ年度の新司法試験の合格率は23.0%。試験の内容も性格も違うとはいえ、かなりの“難関資格”なのだ。

そして、保育士試験は各都道府県で実施するわけだが、自前で試験を作成しているのではない。各知事から「指定試験機関」の指定を受けて代行しているのが「全国保育士養成協議会」である。その点を指摘しながら、ある保育事業者は次のように話す。

「全国保育士養成協議会の会員名簿を見ると、指定保育士養成施設の名前が並んでいる。保育士試験の合格者を増やすと既得権益を弱めることにつながり、合格率に影響しているのではないか。総じて指定養成施設を卒業した保育士のレベルの低下が著しく、採用に値しないケースが目立つなか、質の高い保育士を確保したいのなら、この保育士試験の見直しも必要だろう」

バウチャー実施に立ちはだかる課題

「民営化を進めると保育料が跳ね上がる」という反対論も根強くあるが、鈴木教授は「東京都の認証保育所は、都が認可保育所並みのサービスの質を保証したうえで、自由価格にしているが、保育料の約9割が4万~6万5000円の範囲に収まっている(図6参照)。競争原理が働くので、質に対して保育料が高かったり、安くても質の悪い保育所は淘汰され、自然にある範囲に収斂されるからだ」と説明する。

民間企業なら、コスト削減と質の向上に対する努力は当たり前。ポピンズではトヨタの「カンバン方式」をベースにしたサービススキルの仕組みづくりを開始。たとえば、ベテラン保育士がおむつを替える様子を動画で収録し、一連の動作から効率的なスキルとは何かを分析し、全員で共有化している。また、サクセスアカデミーでは行政との事務手続きの本部一元化やICT化の促進、JPHDでは購買品の一括発注による価格交渉などに努めている。

それでも、現在の認可保育所の保育料とは差が出る。そこで鈴木教授が提案するのが、「バウチャー」という子育て利用券の配布だ。毎月5万円のバウチャーを配れば、保育料が月額6万円でも実質負担は1万円。低所得世帯にはバウチャーの金額を手厚くする。「認可保育所の公費投入を廃止すれば、財源は確保できる」と鈴木教授はいう。