社会問題を解決するたびお金から愛される
JPホールディングスの成長の裏には、まず施設数の増加が関係しています。保育所の場合、売上は運営施設数に比例します。園児あたりの収入は上限が決まっており、また定員も定められているため、売上を増やそうと思えば施設数を増やすしかないのです。その点、首都圏においては待機児童が多いため、品質を落とさない限り施設数を増やせばその分売上が約束される状況です。
保育サービスを提供している会社で、JPホールディングスほど速いスピードで施設を増やしている会社はありません。それだけ成長意欲が強いことがうかがえます。
規模が大きくなると、スケールメリットが得られます。例えば保育所で使用する筆記用具や画用紙、折り紙といった文房具についてはまとめ買いをすることでコストを安く抑えることができます。食材などについても同じことが言えるでしょう。規模の経済によって利益率を改善できるのです。
また、利益が出ると資金力がつくため積極的に設備投資ができるようになり、良い循環が生まれます。2016年3月期の連結貸借対照表では、9億8000万円分の土地が計上されており、また建設中の建物を含めた有形固定資産の簿価は89億円に上ります。自社物件をそれなりに持っているため、賃借料といったコストを安く抑えることができるようになります。
なお、これは設備を稼働させることで収益を得ていく会社の宿命ですが、規模拡大をし続けるとどうしても借金の割合が高くなりがちです。設備投資の額を全て自己資金で賄うことが困難なため一部を借入に頼らざるをえません。
JPホールディングスの場合、2016年3月期末時点の長期借入金(流動負債の「1年内返済予定の長期借入金」と固定負債の「長期借入金」を足したもの)は113億円もあります。自己資本と他人資本の合計である総資産が215億円だということを考えれば、実にその半分以上が借入だということになります。ただし2015年3月期の有価証券報告書における【借入金等明細表】によれば、長期借入金の平均金利は0.378%~0.4%です。一般的には金利が平均2%~3%程度ということを考えれば、会社は極めて低い金利で銀行から借り入れられていることが分かります。それだけ銀行からの信用度が高いのでしょう。JPホールディングスは調達した資金を使って、今後も保育サービスの供給が需要に追い付いていないような地域を中心に保育施設を造っていくそうです。
このように健全な規模の拡大によって経営を安定させているJPホールディングスの事例は、小規模経営の多い保育業界が今後進む方向に、大きな示唆を与えるものです。文部科学省管轄の幼稚園が、小学校入学前の幼児の「教育施設」であるのに対し、厚生労働省管轄の保育所は、乳幼児を保護者に代わって預かる「児童福祉施設」とされています。福祉の領域にある保育所において、このように民間の力が待機児童問題の解決に大きく関与していけるとは、素晴らしいことではありませんか。
「国があなたのために何をしてくれるのかを問うのではなく、あなたが国のために何を成すことができるのかを問うて欲しい」これは、米国のジョン・F・ケネディ元大統領の名言です。国や行政に頼るのではなく、社会問題を自らの力で解決できるような企業がこれからもどんどん増えていってほしいと筆者は願うのです。
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業など、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。