すでに30代になり、同期の女友だちは年収500万~600万円は稼いでいた。不安になって、派遣会社に登録したことも。いざとなれば実験の仕事があり、時給も高かった。

さすがに月2万4000円の境遇を脱しようと決断したのは3年目。研究室を辞め、ポスドクの募集を探し始めた矢先、思いがけず舞い込んだのは国立でも名門大のポスト。月給は一気に30万円まで上がった。

「今も不安定なのは変わりませんよ。ポスドクは3年から5年と任期付きの職だから、その後は異動しなければならないし、すぐに次のポストが見つかるかどうかもわからない。私も1年ごとの契約なので、自分のキャリアをどこまで続けられるかという不安は絶えずありますね」

ポスドクの先に目指すのは大学の正規職員だが、助教(助手)、講師、准教授、教授と職階が上がるほど、女性の比率は低くなり、ことに教授クラスは圧倒的に男性が占める。

そもそもポストが埋まってなかなか空かないことが、「ポスドク問題」の大きな要因だ。そこで悩む高学歴女子もいるが、中谷さんはポストにこだわらない生き方を選んだ。サラリーマン男性と結婚し、今は1児の母となって子育て真っ最中。それでも好きな研究を続けられることが幸せで、人生の目標は「生物の教科書に自分が発見した成果が載ること」。少女の頃から育んだ夢も変わらない。

撮影=吉澤健太