研究成果が出ず全社挙げての事業計画が中止に
上野さんは新人時代から研究者として独自性を磨く努力を重ねていた。
「入社してすぐ、最初の上司に“専門を持て、○○なら上野と言われる研究者になれ”と指導されていたこともあり、自分にしかできない研究テーマを追い求めていました。入社当初は、運動をテーマとする研究所で、“運動と栄養”をテーマに研究を進めていました。ですが、女性研究者としての強みを生かしたいと考え、女子大を回るなどして月経前の体調変化について調査を始めていました。所属部署の案件ではなかったのですが、私が運動よりも女性の健康に興味を持っていることが上司にはひしひしと伝わっていたらしく、理解を得まして、独自にリサーチや実験をさせてもらっていました」
入社して2年目、上野さんのアピールが認められ、「女性の健康」を研究するチームに転属になった。そこは大豆イソフラボン研究の第一人者である内山成人さん率いるチームだ。女性の健康課題としては関心が低かった更年期症状やPMSなど女性特有の課題に関心を寄せ、女性ホルモンに似た構造をもつ大豆イソフラボンの成分研究を進めていた。
希望に燃えた研究生活が始まったが、6年後、背水の陣に追い込まれてしまう。内山さんと共に進めていた大豆イソフラボンの研究で目標としていた「女性の健康のサポートに有効」という成果を出せず、プロジェクトは一時中止を余儀なくされたのだ。
実は、大塚製薬では、当時研究者の間でその有用性が注目されていたものの、科学的根拠が明らかではない大豆イソフラボンに、将来性がある素材として大きな期待を寄せていた。そのため研究所だけの事業ではなく、全社的なプロジェクトとして製品化に向けてさまざまな部署で準備を進めていたという背景がある。大塚製薬では、科学的根拠をもつ食品の開発に長い期間を費やすことや、安全性に万全を期すため、開発プロジェクトが長期に及び、莫大な費用をかけることは珍しくない。もし科学的根拠が証明されなければ、進捗にかかわらず製品化が中止になることもあるとはいえ、全社から期待を集める研究で、明確な成果が出せなかった当事者にとっては重い現実だった。