ビジネスマナーは当然大切です。例えば、会議室や応接室での席次について、入り口から遠い席が上座になるといった基本はマナー本などを見れば書かれています。ただ、来客や出席者は必ずしも、席次どおりに座るとは限らず、バラバラのことが少なからずあります。その場合、難しいのがお茶出しで、順番はどうすればいいのか。

ビジネスマナーで一番重要なのは、相手が納得するかどうかの納得感です。それに対し、秘書が考えるべきなのは、どうすればその場に公平感を出せるかです。公平感は状況により異なり、一律に答えを出せるものではありません。とすれば、秘書は自分なりにこれが公平だと思う方針を考え、自信を持って実行することです。

上座でなくとも最上位者が座っている席を起点にし、順にお茶を配ることもあれば、最上位者が不明確であれば、上座から配ればいい。要は自分が決めた方針がその場にいる人たちに伝わり、納得が得られるかどうかです。そのためには、着席の状況を見て、どう行動すればいいか、相手の立場に立って考えること。まさに知力が求められます。

来客時のお茶出しの際も、上司と来客の会話から、先方との関係値、つまり関係の価値がどんな状態なのか察知すれば、次の機会での気づかいに活かせます。お茶出し一つにも意義を持たせれば、知的な仕事になる。実際、お茶出しは今も私の楽しい仕事の一つです。ポイントは、どんな状況でも知力を働かせられるかどうか。それが広い意味でのビジネスマナーの基本だと思っています。(肩書は雑誌掲載時のまま)

●藤本さん流「3つの秘書知識」
(1)秘書は、醍醐味なんか感じちゃいけないんです。やった! という達成感も。ただただ謙虚でいること。
(2)モチベーションは、昨日より今日、今日より明日と成長していけること。メンバーの成長がうれしい。
(3)100パーセント、全身全霊でやる。その人のために、全神経を注いで。それでもわかってくれない上司なんて、いません。
藤本圭子
セブン-イレブン・ジャパン取締役常務執行役員秘書室長。1988年、セブン-イレブン・ジャパン入社。25年にわたり鈴木敏文氏の秘書を務める。セブン&アイグループダイバーシティ推進プロジェクトリーダーも兼務。育児と両立できる職場づくりや、管理職の意識改革などで成果をあげ、2015年1月に「女性が輝く先進企業表彰」として「内閣総理大臣賞」を受賞。

構成=勝見 明 撮影=濱田 晋