乳房の自然な下垂を、美しく再建する

乳房再建ができるのは「腫瘍が3センチ以下で転移がない」ステージ2まで。転移の有無は腫瘍摘出手術中に調べる。定期的な乳がん検診で、私たちが失わずにいられるものあがる、と知っておくことが重要な備えだ。

そもそも「乳房再建」とはなんだろう。

「乳房再建は、乳がん手術で失われた乳房の再現手術を指します。がんステージ2までの初期がんで、抗がん剤や放射線治療の必要がない場合に可能な形成手術なんです。再建は大きく2種あって、1つが脂肪や筋肉といった自家組織を使うもの、もう1つがここ有明病院でも1500件以上の実績があり、僕の専門分野であるシリコンを使うもの。どちらも乳房の全摘出を前提としています。この病院の場合は、2014年1月の保険適用前からシリコンでの再建実績があるため、シリコンで再建を希望する人が90%を超えているんですよ」

以前の乳がん手術は、腫瘍の周囲だけを切除して、乳房の一部を残す温存術が一般的だった。「でも、切除して変形した乳房の1部を残して、がんの治療を完了させたとしても、外見的な満足度は低いですよね。それに転移の恐れは残る。今は全摘出をして、安心を確保しましょうというのが主流なんです。」

厚労省の統計でも、過去6割以上あった温存術は、この10年で全摘術と逆転している。全摘術の中に乳房再建という新しい選択肢が増えたからである。安全と本来備わっていた乳房の再建、乳房の喪失感という精神的ダメージを新しいもカバーする施術が女性たちに受け入れられているからだろう。

具体的な手術法はというと、胸に「エキスパンダー」と呼ばれる風船のようなものを埋め込み、生理食塩水を入れて膨らませ、経過をみて胸の皮膚が伸びたところで食塩水をシリコンに入れ替える、というもの。その後、順番に乳頭や乳輪の形成手術をするという。全て整えるのに2年ほどかかるらしい。

「僕は胸の形ができたからそれでいい、とは思っていないんです。毎日見る自分の胸が、どうきれいに見えるか、美容外科でコンプレックス医療の現場も見てきた僕のアプローチが、他の形成外科の先生方と違うとすれば、そこがポイントです」

なるほど。乳房再建でなくとも、術後の縫い目や傷跡が気になるのが女性の心情だ。肝心の乳房の形はどう形成されるのだろう?

「胸には自然で美しい下垂がありますよね。ただシリコンを入れただけでは、シリコンの張力で下垂は作れません。そこに工夫を加え、左右のバランスもとりながら、胸の自然な美しさを再現できるようになりました。その術で研鑽を積んできたという自負があります」

美しい「乳房再建」へのこだわりは、たくさんの患者をみてきた経験に裏打ちされ、確信に満ちていた。