乳房再建をリードする「がん研有明病院」

東京都江東区にある「がん研有明病院」。午後の手術を終え、私たち取材班を迎えてくれた形成外科医・前田拓摩さんは、疲れも見せずに飄々とした風情で現れた。

慶応大学理工学部に入学したが、1年で医学の道へ転向。浜松医科大学卒業後、横浜市立大学附属病院形成外科へ。ここで形成手術が必要な子供たちに出会い、形成外科医としてのキャリアが始まった。

「よろしくお願いします」。 白衣を翻して現れた長身は、医師というよりはまるでモデルか俳優のよう。爽やかなこの風貌で、日本の乳房再建をリードするドクターとは恐れ入る。案内されたのは、前田さんの長身には少し手狭な、患者と向き合うための診察室だった。

「午前中はこちらで外来診療、午後は手術。オペ(手術)件数は週に10件ほどあります。自分で執刀もしますが、乳房再建技術を継承するために、今は若手や全国から研修にいらっしゃる先生方に、指導する立場に回ることが多いですね」

2014年1月、乳房再建の保険適用以前から、ここ、がん研有明病院では、がんの切除に加えて術後の再建手術を行ってきた。実績を重ね、現在オペ件数は国内でトップクラスを誇るという。2008年に横浜市立大学附属病院を経てがん研有明病院に来た前田さんも、それらのオペを数多く担当してきた。保険適用以降も、この手術で実績のあるがん研で乳房再建を望む人が多いのだ。

「乳房再建手術は、2014年の保険適用以前は先進医療でしたから、クリニックでできるところはあっても、このがん研のように、がんの保険医療+乳房再建の両方をできるところは少なかったんです。それで必然的に、当時30歳そこそこの僕でも、再建手術の経験を重ね続けることができたんです。現在の僕の再建関連手術件数は3000例以上でしょうか。」

前田さんによると、日本の乳がん患者は、年間約6万人。その中で、2015年に乳房再建をした患者数は約6000人と少なくない。首都圏では約3600人で、うち、がん研有明病院で再建手術を受けた人は、400人弱にのぼるという。1病院で首都圏の乳房再建手術の、10分の1以上を担っているわけだ。