「仕事」と「それ以外の大事なこと」の関係性を整理するのは、まだ難しい

大きな規模の企業であれば、一定数以上の社員が既に働いているので「ライフイベントによりワークスタイルを変えたい」という従業員の要望にある程度は応えられます。

企業によっては「部署の6割が産休・育休で休んでいる」というケースもあるくらいです。もちろん、社員全体の6割が休んでいるわけではなく、対象者を特定の部署に集めてしまい、実際は現状働いている人数で仕事を処理することができるようにして、名目上、在籍はしていが、仕事ができない人をまとめて管理しやすくしているだけの話。

一定の規模があれば、人員の最適配置としてこういう「融通」を効かせることができるのです。しかし、人数がギリギリのベンチャー企業だとそうはいかない。一人欠けるだけで、仕事が回らなくなりかねません。

簡単にいうと「働いてもらうつもりであてにしている人が、急にいなくなるのは困る」というシンプルな話であり、その問題が起きないようにする、もしくは起きた問題を解決する方法があまりない、ということです。だから、ライフイベントに「現状は」左右されにくい男性を雇っておいて、そのリスクを回避したいと、採用担当者は心の隅っこで思っているのです。

もちろん、そもそもの話をすれば「なかなか辞められないようにする」とか「一定の年数はワークスタイルを変えてはならない」など、企業の「あてにしていた人がいなくなるリスク」を回避するために、働く人の権利を侵害する制度や仕組みは作ることができませんし、作る必要もないでしょう。

ただ、批判があることを承知で書いてしまうと、そういうリスクを企業が甘受しなければならない、その前提で仕組みが作られ、運用されている以上、本音のところでは、女性と男性を天秤にかけた時、ライフイベントに左右されない人を企業が選択するという状況は、なかなか改善されません。

「ライフイベントに男性も左右されて当たり前の世の中になると、もしかしたら、世の中全体で抜本的な解決策を考えるようになるかも」

これは冒頭で「しばらくは男性だけを採りたいと思ったことがある」と発言した、女性の採用担当者のセリフです。性差にはある種の役割があり、相互が変われないことも少なくありません。それを考慮したとしてもなお、ライフイベントに左右されるのは「ほとんど女性である」必要はないはずです。