「もう少し会社が大きくなるまで、男性しか採用しない」こう考える中小企業の人事担当者は男女とも少なくありません。理由はシンプルですが、解決するにはどうしたらいいのでしょうか?

一定規模に達しないベンチャー企業の採用担当者と話をしていると、次のようなセリフを耳にする機会が少なくありません。

「もう少し、会社が大きくなるまでは、男性しか採用しないという方針でいいような気がする、という話になってしまうのです、どうしても」

人事担当者の本音

これ、別に男性の採用担当者が話しているわけではありません。女性の担当者であっても、こうしたことを考えている人は意外に少なくない。当然のことながら、表立ってそんな話をする人たちはいません。そして、本心から思っているわけでもなく、結果としてそういう採用をしているわけではない。

けれども、心のどこかで「女性に働いてもらう」ということの難しさを、企業の人事担当者たちは痛感している、ということに他なりません。

理由はシンプルで、男性と比較して、女性の仕事は「ライフイベント」に左右されることが多いからです。例えば、入社時の面接の時に「結婚しても、ずっと働き続けられる御社に入りたい」と言っていても、結果として結婚・出産したら退職してしまう、という感じでしょうか。もちろん、それが悪いとか、そういうことは止めてくれという話ではありません。ただ企業から見ると、不確定要素の高い人(=女性)を雇うことにリスクを感じているのは事実です。

こう言うことを書いてしまうと「そんな企業は、もはや時代遅れで少ないはずだ」とか「ベンチャー企業ほど、女性活用に熱心じゃないか」という声が聞こえてきそうです。かつてと比較すると、そういうことを考える企業が少なくなったのも、皆さんは肌で感じているはずです。

しかし同時に、ライフイベントに働き方が左右されるのは女性、という状態にそれほど大きな変化がないことも実感しているのではないでしょうか。結婚したから仕事を辞めて家庭に入るという男性はほとんどいません。ほとんどいないからこそ、たまに出現すると、ニュースとして取り上げられるのです。

「仕事」と「それ以外の大事なこと」の関係性を整理するのは、まだ難しい

大きな規模の企業であれば、一定数以上の社員が既に働いているので「ライフイベントによりワークスタイルを変えたい」という従業員の要望にある程度は応えられます。

企業によっては「部署の6割が産休・育休で休んでいる」というケースもあるくらいです。もちろん、社員全体の6割が休んでいるわけではなく、対象者を特定の部署に集めてしまい、実際は現状働いている人数で仕事を処理することができるようにして、名目上、在籍はしていが、仕事ができない人をまとめて管理しやすくしているだけの話。

一定の規模があれば、人員の最適配置としてこういう「融通」を効かせることができるのです。しかし、人数がギリギリのベンチャー企業だとそうはいかない。一人欠けるだけで、仕事が回らなくなりかねません。

簡単にいうと「働いてもらうつもりであてにしている人が、急にいなくなるのは困る」というシンプルな話であり、その問題が起きないようにする、もしくは起きた問題を解決する方法があまりない、ということです。だから、ライフイベントに「現状は」左右されにくい男性を雇っておいて、そのリスクを回避したいと、採用担当者は心の隅っこで思っているのです。

もちろん、そもそもの話をすれば「なかなか辞められないようにする」とか「一定の年数はワークスタイルを変えてはならない」など、企業の「あてにしていた人がいなくなるリスク」を回避するために、働く人の権利を侵害する制度や仕組みは作ることができませんし、作る必要もないでしょう。

ただ、批判があることを承知で書いてしまうと、そういうリスクを企業が甘受しなければならない、その前提で仕組みが作られ、運用されている以上、本音のところでは、女性と男性を天秤にかけた時、ライフイベントに左右されない人を企業が選択するという状況は、なかなか改善されません。

「ライフイベントに男性も左右されて当たり前の世の中になると、もしかしたら、世の中全体で抜本的な解決策を考えるようになるかも」

これは冒頭で「しばらくは男性だけを採りたいと思ったことがある」と発言した、女性の採用担当者のセリフです。性差にはある種の役割があり、相互が変われないことも少なくありません。それを考慮したとしてもなお、ライフイベントに左右されるのは「ほとんど女性である」必要はないはずです。

女性管理職を増やそうという数字目標を作る前に考えるべきこと

キャリアの曲がり角に差し掛かっている(つまり会社においてベテランや管理職と言われる立場にある)このコラムの女性読者の皆さんの中で、「いま私は、自分が思い描いたキャリアプラン通りの仕事ができている」という人はどれくらいいるでしょう? 働く女性の多くは、ライフイベントに左右されたキャリアを持っているはずです。結婚、出産、育児、今なら介護もそうかもしれません。仕事とは関係ない、しかし自分の人生においてとても重要な出来事によって、出世をあきらめたり、別の道を模索したり、転職を余儀なくされたりした人も多いのではないでしょうか。

「後に続く後輩のために、道を整備してあげてほしい」という話をするのは簡単ですが、そういうことでもないような気がします。とはいえ、自分がそういう状況に置かれた時に、どのような制度や仕組みがあればもっといい選択ができたのかを振り返る、という話なら、すでに多くの提案がなされているので、「屋上屋を架す」みたいなものでしょう。女性活用(この言葉は好きではありませんが)を考えると称して、政府もたくさんの数値目標を設定して、打ち手を用意しているので、それに期待したいところですが、なかなか難しい。

今回のコラムには、結論らしい結論はありません。ただ、女性の働きやすさを改善していくためには、それまで当たり前だと思っていたこと、今回なら「ライフイベントにキャリアが左右されるのは、圧倒的に女性が多い」という状況を、一個人として改めて考え直すところから始めることが、結果として近道なのかなという気がしています。「変わらない」ことの多くは、いまとなっては「ちょっとした思い込み」に左右されていることも多いからです。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。