母となった今だから、どれだけ短時間で結果を出すかが重要

バレエ団のプリンシパルという立場は、大きなプレッシャーとの闘いの連続だ。「私だけではなく、カンパニー全体をよく見て、演目の重要性や課せられている重さなど、何もかも分かりながら舞台に出ないといけません。特に『白鳥の湖』なんて、脇役は大変なんですよ。ずっと立ちっぱなしの踊りっぱなし。彼女たちが脇を飾ってくれるから、私がいるんです」

当然、西野さんのコンディション次第では主役を取って代わろうと、チャンスを狙う後輩たちからの無言のプレッシャーもある。それでも、カンパニーを背負って立つ重責を担い、トップで踊り続けるために努力する理由は、「自分がいつまでも輝いていたいから」。母親になったプリンシパルの中には、そうしたプレッシャーに耐えることより、母親業に時間を費やすことを選んでプリンシパルを降りる人もいるという。しかし、「それは私じゃない」と西野さんは語気を強める。

「若いダンサーたちは、テクニック的に私より強い部分もあります。一方で、10歳若いダンサーと私では、比べるものが全然違う、私には彼女たちにない経験があります。また、若いダンサーの“上に行きたい”というハングリー精神は、必要なもの。だから自分がトップにいたいと思うのであれば、彼女たちより2倍、3倍努力しないといけない。

子どもがいるとトレーニングや自分をケアする時間がないので、どれだけ短い時間で、自分をベストの状態にして舞台に立てるのかが重要になってきます。母親になる前にはなかったプレッシャーとストレスがありますが、今はそれをすごくエンジョイできています。舞台のプレッシャーがとても好きなんですよね」

出産後、「踊りがディープになった」と同僚のダンサーから言われるという。自身にとって、「踊る悦びとは何か」と聞くと、「バレエは私にとって“職業”ではなく、“人生”そのもの。何もかもが好き」という力強い言葉が返ってきた。

「バレエで痛くなる体も好き(笑)。筋肉痛も、そこまで自分をプッシュして仕事をしたからこその痛みですから。ハードワークも好き、プレッシャーも好き。バレエから与えられる何もかもの経験が大好きです」

※後編は2/5の配信予定です。

西野麻衣子
大阪府生まれ。6歳よりバレエを始め、橋本幸代バレエスクール、スイスのハンス・マイスター氏に学ぶ。1996年、15歳で英国ロイヤルバレエスクールに留学。19歳でオーディションに合格し、ノルウェー国立バレエ団に入団。25歳の時、同バレエ団で東洋人初のプリンシパルに抜擢される。同年、「白鳥の湖」全幕でオデット(白鳥)とオディール(黒鳥)を演じ分けたことが評価され、芸術活動に貢献した人に贈られる「ノルウェー評論文化賞」を受賞。同バレエ団の永久契約ダンサーとして活躍中。
『Maiko ふたたびの白鳥』
監督=オセ・スベンハイム・ドリブネス
出演=西野麻衣子、西野衣津栄 ほか
提供=ハピネット 配給=ハピネット、ミモザフィルムズ
2015年/ノルウェー/70分
公式HP(http://www.maiko-movie.com/
■2月20日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

撮影=森崎純子(インタビューカット)