「よろしくお願いします」を使わない

指示が分かりづらくなってしまう理由に「お願いしたいことを明確にしていない」ということがあります。その代表例が「よろしくお願いします」です。

日本語の「よろしくお願いします」はとても便利な表現で、頻繁に使われます。しかし、この言葉自体は内容を何も表していません。

「今週の定例会議は、会議室予約の都合で、通常より30分短くなりますので、よろしくお願いします」

この最後の「通常より30分短くなりますので、よろしくお願いします」という部分に注目してください。よろしくお願いされたのは分かりますが、何をお願いされたのかは分かりません。

「よろしくお願いします」が、「普段より30分短くなりますが、ご了承ください」なのか、「いつもより30分短いので、絶対遅刻しないでください」なのか、「事前にある程度考えをまとめてきてください」なのか、分からないのです。

「ご了承ください」の意味であれば、参加者が準備してこなければいけないことは特にありませんので、実害はないでしょう。しかし、「事前にある程度考えをまとめてきてください」というつもりだったら? 中には準備してこない人もいるでしょう。ここで「事前に『よろしくお願いします』とお伝えしたはずですが」と、相手を責めることはできません。この言い方では伝わらないからです。

「この扉は、強風で突然開くことがありますので、よろしくお願いします」
→「この扉は、強風で突然開くことがありますので、この付近に立ち止まらないでください」

「出発前に、お渡しした備品が全部そろっているかご確認よろしくお願いします」
→「出発前に、お渡しした備品が全部そろっているか確認し、万が一不備があった場合は○○営業部までご連絡ください」

「よろしくお願いします」の代わりに、相手に取ってもらいたい行動を明言しましょう。それだけで意図を分かりやすく伝えられます。

木暮太一(こぐれ・たいち)
一般社団法人 教育コミュニケーション協会 代表。
学生時代から難しいことを簡単に説明することに定評があり、大学時代に自作で作った経済学の解説本が学内で爆発的にヒット。独自に磨いてきた「わかりやすく説明する」ノウハウに基づき、2013年に教育コミュニケーション協会を設立、「説明力養成講座」「マーケティング説明力養成講座」「キッズ作文トレーナー養成講座」で教え始める。現在、経済ジャーナリストとしてテレビ等メディアでの経済ニュース解説を行うほか、企業・大学・団体向けに多くの講演活動を行っている。