【3】集中の間

――自分に注意が集まるまで、話し始めない

聞き手の注意を喚起するための間が「集中の間」です。特にプレゼンテーションのオープニングの時には絶対にこの間をとることをお薦めします。間をとることで相手が話を聞く姿勢をとるまで待つのです。慣れていない人は、「早く始めなくては……」と、聞き手がざわざわしていても話し始めてしまう人がいますが、ぐっと堪えて静かになるまで待ちましょう。じっとしているのがつらい場合には、手元の資料を整理したり、PCを整える“フリ”をしていても構いません。とにかく注意が集まるまで始めないことです。

私は講師をする際に、PCを持ち込まれる受講生が多い場合には、特にこの間を使います。受講生がPCやスマホから目と手を話すまで講義を始めません。この間は聞き手の注意を喚起するだけではありません。「準備が整うのを待ちますよ」ということが伝わり、話し手として聞き手に対して注意を払っているということも示しているのです。聞き手が何かしているにも関わらず話し始めることは「内職しながら聞いてもOKです」と暗に言っていることにもなります。

また、私が子供の小学校で読み聞かせのボランティアをした際にも、この集中の間が子供たちに対しても効果的であることを実感しました。低学年の子供たちは集中できる時間がそもそも長くありません。私語がなくなり、全員が私の方を見るまでは一言も話さず、途中でざわついてきた時も、再度集中させるために間をとり静かになるまで次のページに進まないようにしました。終わった時に、担任の先生から「絵本の題名を聞いた時に、1年生には長い話だから心配でしたが、最後まで全員集中して聞き入っていて驚きました」とお褒めの言葉をいただいた時は、このテクニックは大人にも子供にも使えると実感しました。余談ですが、朗読や読み聞かせは話し方のスキルを上げたい時には非常に効果的なトレーニングです。優れた文章を間や抑揚を意識して読むことで鍛えられますので、是非やってみてくださいね。

――「?」のあとの鉄則は「沈黙」

集中の間のもう一つの活用シーンは、プレゼンテーションの中で質問をする時です。例えば、「皆さんはこの分析結果をどう思いましたか?」と質問した後には、すぐに次の説明を始めずに、できるだけ長めの間をとってください。聞き手の反応がないと不安になってしまい、すぐに質問の答えを話したくなる心情は十分に分かります。質問が悪かったのか、データが悪いのか、そもそも興味を持ってもらえてないのか……とドキドキするでしょう。そこをぐっと堪えて、心の中で3秒から4秒カウントしてください。その時間で聞き手は質問の答えを自分自身でしっかりと考えるのです。

聞き手は質問の答えを自ら考えることによって、「こうではないかな?」という仮説を持ちます。人は仮説を持つとそれがあっているのかどうかを検証したくなり、その後に続くあなたの話を聞きたくなるのです。この仮説をつくる時間をしっかりとることで、その後に続く話に注意を惹きつけることができます。

効果的な話し方として声の強弱など抑揚をつけることはもちろん必要ですが、聞き手が集中していなくては、いくら大げさな抑揚をつけても耳に入りません。まずは効果的な間を意識し、次に重要なところで声を1.5倍大きくすることを心掛けてみてください。

清水久三子
お茶の水女子大学卒。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、数々の変革プロジェクトをリード。
2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEの人材育成を担い、独立。2015年6月にワーク・ライフバランスの実現支援を使命とした会社、オーガナイズ・コンサルティングを設立。延べ3000人のコンサルタント、マーケッターの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。
主な著書に「プロの学び力」「プロの課題設定力」「プロの資料作成力」(東洋経済新報社)、「外資系コンサルタントのインパクト図解術」(中経出版)、「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」、「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」(KADOKAWA)がある。新刊「ビジュアル 資料作成ハンドブック」(日本経済新聞出版社)は1月16日発売。