惹きつけられる演説やスピーチ、堂々たる話しぶりのアクセントになっているのは「間(ま)」だと気付いていましたか? 今回のプレゼン・テクニックはちょっと上級編、「間」のとり方。プレゼンだけでなく、ここぞというシチュエーションや子供の対応にも応用が利くこのテクニック、必読です。

前回紹介した「『ヒゲ』のある女はお断り!? 言葉のヒゲのない、知性のある美しい伝え方」で、「言葉のヒゲ」や語尾のばしなど不快に感じる話し方のノイズをカットした後は、効果的な話し方を会得しましょう。声の大きさはもちろんですが、最も効果を発するのは「間(ま)」の取り方です。

「間」を制するものは場の集中を制する

ノイズカットの次は、「フォーカス」つまり強調するテクニックを学んでいきましょう。ポイントは2つ。「間(ま)」と「抑揚」です間(ま)は言葉や文章の間に沈黙を入れること、抑揚は声の強弱です。声の強弱で抑揚をつけるのはもちろん効果的ですが、それ以上に相手を惹きつけるのは実は間なのです。

間がないとどうなるか想像してみてください。延々と切れ目がなく話が続く……段々と興味関心が薄れてきて、意識が遠のき、挙句の果てには眠気を誘うということになるのは容易に想像できますね。間をコントロールできるようになれば、面白いくらいに聞き手はあなたの話に引きこまれていきます。

間と一口に言っても、目的に応じてその長さに違いがあることをご紹介します。

3種類の間「理解」、「強調」、「集中」を知る

間には3つの種類があります。

(1)理解の間
情報の区切りを表す間です。聞き手がそれまでに言われたことを頭の中にインプットするためにとる間だと考えてください。
(2)強調の間
重要なことを、聞き手に重要だと認識してもらうための間です。この間をとらずに重要なことを話してしまうと、「え、そんなこと言ってた?」とスルーされてしまい、記憶に残りにくいのです。
(3)集中の間
注意を惹きつけるためにとる間です。また、聞き手に対して質問をした時に、聞き手に集中して考えてもらうためにもこの間が必要です。

一口に間と言っても、いろいろあることが分かりましたか? 無闇に間をとるのではなく、目的に応じて意図的に間をコントロールできるとよいでしょう。では、(1)~(3)の間をどんな時に、どれくらいとるのかという使い方を見ていきましょう。

【1】理解の間

――聞き手とのタイムラグを埋める「理解の間」は句読点でとる

一つ目の理解の間は、文章の句読点の間に入れていきます。文章の中で「、」の位置に当たるものには0.5秒の間、「。」の位置では、1秒程度の間をとってください。

聞き手は、あなたがこれからどんな話をするのか、全容が見えていません。そのため、今話されたことを処理するのに話し手が思っているよりも時間がかかるのです。この「発信側と受取側のタイムラグ」を埋めるのが「理解の間」です。この間によって、聞き手はそれまで聞いていた一連の情報を一つの固まりとして認識し、意味を判断して頭に収め、次いで次の情報を受け入れる準備が整うのです。

この間がないと、理解が追いつかない → 疲れて集中力が途切れる → 次の話が耳に入ってこない → 更に理解が追いつかない → 興味を失う……と負のスパイラルにどんどん陥っていきます。一度このループに入った人の意識を話に向けるのはとても困難です。

文章を読む場合には、「。」や「、」という記号や改行という区切りが目に見えるので、読み手はあらかじめどのくらいの分量の情報が来るのかが予想できますが、話を聞く場合には予想がつきにくいので、話し手は句読点を表現するつもりで、理解の間を入れます。

理解の間では単に時間をあけるだけではなく、間(ま)の間に聞き手の反応を見るとよいでしょう。話についてきているか、理解できずにいるのか、疑念を抱いているのか……ということを確認しましょう。しっかりとこちらを見ていれば、理解できていますし、首をかしげたり、眉を寄せたりしていれば、話についていかれていなかったり、内容に疑問を抱いている可能性があります。明らかに眠そうだったり、PCやスマホを操作しているようだと、全くついてきていないか、聞くのを放棄したということです。

相手がついてきていないと分かった場合に、そのまま話し続けるのは、負のスパイラルがどんどんと進んで取り返しのつかない状態になってしまう、とても危険な行為です。相手が心の中で、「この話は理解できない。聞く価値なし」という状態に至る前に対応する必要があります。

例えば「ここまでの話はご理解いただけましたか?」と理解レベルを確認したり、「少し違和感を感じている方がいるようですね」など聞き手の疑念を受け止めて、違う表現で話してみましょう。

折角、理解の間をとっても、理解されていなければ無意味です。聞き手を置き去りにしないように、理解の間で反応をつかみましょう。

【2】強調の間

――「お・も・て・な・し」は強調表現。秒単位の必勝テク 

間の二つ目は、更に一歩進んで、聞き手に特に重要なことを強調して伝えるための「強調の間」です。強調したい言葉の前に2秒から3秒、後ろに1秒の間をとります。例えば、重要な数字、キーワードなど、資料では文字を大きくしたり、色を変えたりして強調表現する部分の前後に間を入れるのです。

英語のプレゼンテーションでは、キーワードを話しながら、右手と左手の人差し指と中指二本で、そのキーワードを挟むように動かすジェスチャーをすることがあります。これは「ダブルコーテーションマークで囲んである重要なキーワードですよ」という意味のジェスチャーです。ダブルコーテーションマークは、日本語なら「 」=カギ括弧です。ダブルコーテーションマークの“”という記号を指の動きで表現しているわけです。資料上やジェスチャーなどのビジュアル表現ではなく、話の中で重要な語を強調するためには、間を前後に入れることで表現します。

例えば、「我々の部門に求められているもの。それは(2-3秒の間)意識改革です! (1-2秒の間)」というふうに強調したい語の前後に入れます。前だけでなく、後に入れることで、強調したい言葉を聞き手が頭の中で反芻する時間ができ、より記憶に残るのです。すぐに次の説明をかぶせてしまうと、そちらに上書きされてしまいます。キーワードを聞き手の頭の中に刻みこむような気持ちで、たっぷりと間をとりましょう。

「強調の間」の好例が、東京オリンピック招致のプレゼンテーションの中で滝川クリステルさんが使った「お・も・て・な・し」というキーワードを表現した際の間のとり方です。言葉の前後だけではなく、ひらがなの一つひとつの間にも間を入れることでキーワードが更に強調されました。ジェスチャーの効果もありますが、あの言い方は多くの人の記憶に残ったのではないでしょうか? 結果、2013年の流行語大賞になるほどのインパクトがありましたね。

強調の間を理解していただくために、もう一つ分かりやすい例を挙げます。こちらも同年の流行語大賞になった言葉です。カリスマ予備校講師の林先生の「いつやるの? 今でしょ!」というキャッチフレーズも間を上手に使っています。「いつやるの?」の後に数秒の間があるのです。この間がなかったら、「今でしょ!」は引き立ちません。余談ですが、林先生は間の長さを場によって変えているそうです。バラエティやクイズ番組はとてもテンポのよい会話が飛び交うので、あまり長い間をとらず、早めに言うとのこと。このように間を使いこなすことができたら、かなりのプレゼンテーション上級者です。

【3】集中の間

――自分に注意が集まるまで、話し始めない

聞き手の注意を喚起するための間が「集中の間」です。特にプレゼンテーションのオープニングの時には絶対にこの間をとることをお薦めします。間をとることで相手が話を聞く姿勢をとるまで待つのです。慣れていない人は、「早く始めなくては……」と、聞き手がざわざわしていても話し始めてしまう人がいますが、ぐっと堪えて静かになるまで待ちましょう。じっとしているのがつらい場合には、手元の資料を整理したり、PCを整える“フリ”をしていても構いません。とにかく注意が集まるまで始めないことです。

私は講師をする際に、PCを持ち込まれる受講生が多い場合には、特にこの間を使います。受講生がPCやスマホから目と手を話すまで講義を始めません。この間は聞き手の注意を喚起するだけではありません。「準備が整うのを待ちますよ」ということが伝わり、話し手として聞き手に対して注意を払っているということも示しているのです。聞き手が何かしているにも関わらず話し始めることは「内職しながら聞いてもOKです」と暗に言っていることにもなります。

また、私が子供の小学校で読み聞かせのボランティアをした際にも、この集中の間が子供たちに対しても効果的であることを実感しました。低学年の子供たちは集中できる時間がそもそも長くありません。私語がなくなり、全員が私の方を見るまでは一言も話さず、途中でざわついてきた時も、再度集中させるために間をとり静かになるまで次のページに進まないようにしました。終わった時に、担任の先生から「絵本の題名を聞いた時に、1年生には長い話だから心配でしたが、最後まで全員集中して聞き入っていて驚きました」とお褒めの言葉をいただいた時は、このテクニックは大人にも子供にも使えると実感しました。余談ですが、朗読や読み聞かせは話し方のスキルを上げたい時には非常に効果的なトレーニングです。優れた文章を間や抑揚を意識して読むことで鍛えられますので、是非やってみてくださいね。

――「?」のあとの鉄則は「沈黙」

集中の間のもう一つの活用シーンは、プレゼンテーションの中で質問をする時です。例えば、「皆さんはこの分析結果をどう思いましたか?」と質問した後には、すぐに次の説明を始めずに、できるだけ長めの間をとってください。聞き手の反応がないと不安になってしまい、すぐに質問の答えを話したくなる心情は十分に分かります。質問が悪かったのか、データが悪いのか、そもそも興味を持ってもらえてないのか……とドキドキするでしょう。そこをぐっと堪えて、心の中で3秒から4秒カウントしてください。その時間で聞き手は質問の答えを自分自身でしっかりと考えるのです。

聞き手は質問の答えを自ら考えることによって、「こうではないかな?」という仮説を持ちます。人は仮説を持つとそれがあっているのかどうかを検証したくなり、その後に続くあなたの話を聞きたくなるのです。この仮説をつくる時間をしっかりとることで、その後に続く話に注意を惹きつけることができます。

効果的な話し方として声の強弱など抑揚をつけることはもちろん必要ですが、聞き手が集中していなくては、いくら大げさな抑揚をつけても耳に入りません。まずは効果的な間を意識し、次に重要なところで声を1.5倍大きくすることを心掛けてみてください。

清水久三子
お茶の水女子大学卒。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、数々の変革プロジェクトをリード。
2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEの人材育成を担い、独立。2015年6月にワーク・ライフバランスの実現支援を使命とした会社、オーガナイズ・コンサルティングを設立。延べ3000人のコンサルタント、マーケッターの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。
主な著書に「プロの学び力」「プロの課題設定力」「プロの資料作成力」(東洋経済新報社)、「外資系コンサルタントのインパクト図解術」(中経出版)、「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」、「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」(KADOKAWA)がある。新刊「ビジュアル 資料作成ハンドブック」(日本経済新聞出版社)は1月16日発売。