給料と業績が一致しない企業もある

テレビ局で働く人の構成は東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドと似ています。有名な話ですが、ディズニーリゾートで働く人の9割近くがアルバイトです。正社員は1割程度に過ぎません。ところがアルバイトが正社員並みに出勤した場合の年収は200万円台なのに対し、正社員の平均年収は800万円前後あります。4倍もの開きがあるのです。

同じことがテレビ局についても言えるでしょう。社員数が少なく、制作会社への委託度が高いテレビ局員の年収は1500万円超でも、制作会社で働く人の年収はその4分の1以下と言われています。なぜバイトや下請けの給料が安いかと言えば、それは需要と供給の関係によります。ディズニーリゾートで働きたい、テレビの番組制作に携わりたい、といった希望者が多ければ多いほど、その人件費を安く抑えることができます。人気業界で働くということはかくも厳しく、その中で正社員になるのは狭き門なのです。

【3. 不規則な勤務に対する手当が付くため】

番組制作や放送の都合上、アナウンサーや報道記者に限らず、制作や編成などに関わる社員も勤務時間が早朝や深夜に及ぶことも多く、長期出張なども考えられるため、さまざまな手当てが発生します。

冒頭でも触れましたが年末年始にバラエティーやスポーツ番組を楽しむ視聴者がいる一方で、その放映のために働いているテレビ局員がいます。テレビ局員は通常通り休日を楽しむことができないケースも多いのです。

また、テレビ局員の仕事はルーティンワークではなく、常に新しいコンテンツを作り出す必要があります。そして最近では二次使用も盛んとなりましたが、この流れては消えていく番組という名の“商品”には、視聴率という結果がもれなくついてきます。激務である上に、リアルタイムでたたき出される結果にも責任を持たなければならないので、体力的にも精神的にもハードだと考えられます。

以上のような理由を考えれば、テレビ局員の給料が高いのもうなずけるのではないでしょうか。一般的な傾向としては業績好調で利益率の高い会社の社員の給料が高いのですが、中にはテレビ局のようにそれほど利益率が高くなくても仕事の特質により給料が高くなることがあるのです。

3つの理由を満たす企業や、参入障壁が高い業界はほかにもあるはずです。しかし給与面でテレビ局ほど恵まれているところはまず見当たりません。そこには過去から続いてきた人件費の相場など、その業界ならではの背景が存在していると言えるでしょう。

いまや毎年のように企業の年収ランキングが開示され、それが就職先としての人気にも影響を及ぼしたりしますが、ただ単に給料が良いという点に反応するのではなく、なぜ給料が高いのか、その理由や業界の特性について考えてみてもいいのではないでしょうか。「なぜ」の問いかけに対してヒントを与えてくれるのが決算情報なのです。

それでは2016年、プレジデントウーマンオンライン読者皆さまの益々のご活躍とご繁栄をお祈り申し上げます。

秦 美佐子(はた・みさこ)
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業など、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。