基準の緩和が悪循環を生む

2015年12月4日、国は幼稚園教諭や小学校教諭を保育士の基準配置数に含め、保育士の代わりを務められるように基準を緩和する方針を発表しました。保育士以外の人材が入ることで子どもによい影響があるという意見もあります。確かにそうだと思います。でもそれは、最低基準の配置数を保育士で満たした上でのプラスαの部分でなくてはなりません。

基準人員の保育士(担任の先生)は、0歳からの子どもの発達や心理を把握し一人ひとりにそった保育を考え提供する役割をもっています。専門的な視点から保育の計画を立て、記録をとり、クラスのあり方・保育環境のつくり方を考える核となる人たちです。保育士配置基準の緩和は、保育の質の低下をもたらすとともに、保育士の士気を下げる危険性もあります。

芸術家やスポーツ指導者、地域の年配の方や学生などが非常勤やボランティアなどとして保育現場に入ることはすでに行われています。これと、保育士の基準配置数に無資格者を含めることはまったく違う問題です。

基準が緩和されると、コストが削減され、どうしても低いほうに流れる傾向があります。定員超え受け入れの常態化、園庭のない施設の増加、保育室の狭隘化。その結果、保育環境が悪化し、保育士の負担はふえています。

意欲的な保育士は、乳幼児期の子どもの発達について学び、保育への夢を描いて現場に入ったと思います。ところが、物理的環境や人的な環境の悪化がそんなことを考えるゆとりを奪い、夢やぶれて現場を離れるケースも少なくありません。

基準の緩和は、保育士の負担をふやし、離職を促進しています。

公立保育園の民営化が保育士不足に拍車をかける

公設公営で働いている保育士は公務員です。安定して働ける身分であるため、ベテランも多く在職しています。公立保育園が民営化(公設民営化・民設民営化)されると、これらのベテラン保育士はほかの職場に配置転換されることになります。もちろん、行政部門に入って、保育課で民間保育園の助言や指導などに従事することも有効な人材活用策です。

しかし、この保育士不足のときに、わざわざ民営化をしてベテラン保育士を現場から遠ざけ、それを引き継いだ民間事業者が保育士争奪戦に参戦するというのは矛盾しています。また、一生安定して働ける職場としての待遇に恵まれた公立保育園の減少は、これから保育士をめざそうとする人たちの意識にも影響を与えると思います。