長時間労働慣習が社会のコストになっている
都市部の認可保育園の大半が延長保育を実施するようになり、2時間、4時間の長時間延長を実施する園もふえてきました。
かつて短時間勤務制度もなく、1時間の延長保育さえ普及していなかったころ、フルタイマー共働き家庭は本当に苦労したので、これは大きな改善でした。その反面、長時間延長が保育士のローテーションを厳しくしている面もあります。
親は会社に残業を求められ、それをカバーする延長保育が行われていれば、仕事に頑張ってしまいます。その結果、親自身が疲弊してしまうこともあります。長時間延長を切実に必要とする家庭のニーズに保育園は応える必要がありますが、社会全体として考えた場合、残業で延長保育の利用がふえるような事態は、仕事と子育ての両立がより困難になり、延長保育の経費が膨らみ、保育士の労働条件がさらに厳しくなるというネガティブな影響が懸念されます。日本企業の長時間労働の慣習は、社会のコスト(負担)になっているのです。
保育を縦に伸ばすために使われている保育士の力を、横に伸ばす(より多くの人が保育を利用できる)ことに使うためにも、社会全体としてワーク・ライフ・バランスを進める必要があります。
すぐに対策を打つ必要
都市部の子育て家庭が、急速に共働きに舵を切っている状況下、また、国も経済や社会保障の将来をにらんで「一億総活躍社会」という旗をふっている以上、保育士不足への対策は急がなくてはなりません。2013年で認可保育園に働く保育士は35.6万人、2017年度には46万人が必要になると推計されています。この人たちが「よくなった」と実感できる変化が必要です。
OECDは国家の教育投資において、乳幼児期はもっとも費用対効果の大きいものであることを明らかにしています。保育士が経験や力量に応じた報酬を得られるように保障するという単純明快な対策から、まず取り組む必要があります。
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)、『「小1のカベ」に勝つ』(実務教育出版)ほか多数。