日本で唯一の底吹き式転炉

それからもう一つ、就職して4年が経ったいま、自分のモチベーションになっていることがあります。

実は第3製鋼工場の転炉は、世界でも珍しい「底吹き転炉」と呼ばれる方式を採用しているんです。
溶けた鉄に酸素を吹き込む転炉には、上から空気を吹き付ける「上吹き式」と私たちの「底吹き式」があります。

底から酸素を供給するタイプの転炉は日本ではここだけ、世界でも3つしかない非常にめずらしいものなんです。

転炉の下から直接酸素を供給する底吹き式のメリットは、鉄よりも先に大気と触れてしまう上吹き式と比べて、お湯に届く酸素量が多いことが挙げられます。それだけ効率が良く、鉄の品質も高くできます。一方で設備に何か不具合があると、溶けた鉄が漏洩してしまうかもしれない、というリスクがあります。

よってどの工場でも安全な上吹き転炉方式を採用しているわけですが、私はやはり品質面でメリットのある底吹き式に可能性を感じているんです。

この部署で4年間を過ごすうちに、底吹き式の転炉に愛着を感じるようになりましたし、今後の施設の更新時にも世界で稀有なこの転炉を受け継いでいきたいと思っています。

決断できるエンジニアでありたい

自分のキャリアを考えるとき、現在の研究対象である転炉の知識を、一本の幹として育てていきたいという思いが私にはあります。また、まだ女性の先輩エンジニアが社内にいないので、今後は配置転換で工場の現場に出たり、研究所に行ったりする中で、常に自分が道を切り開いていくことになるんだ、という責任も感じています。

その中で大切なのは、「決断のできる人間になること」だと思っています。結果が成功であろうと失敗であろうと、どんなときでも優先順位を決め、「自分はこう思う」と物事をきちんと決められるエンジニアでありたい。そうすれば、どんな部署や立場になってもやっていける、という気がするからです。

今後は自分のような女性のエンジニアも徐々に増えていくはずですから、10年後にはずいぶんと社の雰囲気も変わっていると思います。そのときに良い先輩でいられるよう、あまり気を張り過ぎることなく、あくまでも自然体で歩いていきたいですね。

●手放せない仕事道具
現場に入る時のヘルメット、ノート、筆記具

●好きな言葉
ありがとう(いつでも感謝の気持ちは忘れずにいたいので)

●ストレス発散法
いっぱい食べて、いっぱい飲んで、いっぱい寝る

 
中村春香
1987年生まれ。2012年、早稲田大学大学院基幹理工学部修了後、JFEスチール入社。東日本製鉄所(千葉地区)製鋼部へ配属。第3製鋼工場の転炉精錬を担当、配属後は、転炉精錬・2次精錬を担当。趣味は旅行。最近は、ダイビングで海の中の世界を楽しむことにはまっている。また、仕事のおかげで日曜大工がうまくなり、部屋の家具は自分で作る(愛用品はドリル)。

構成=稲泉 連 撮影=村山嘉昭