2016年の夏のことだ。ダイキン工業に勤める植野公美子さんは連日、窓を閉め切った工場のなかで汗だくになって働いていた。
「まさに蒸し風呂でした。とにかく現場が暑くて暑くて……」と笑いながら、彼女はわずかに眉根を寄せ、灼熱(しゃくねつ)の日々を振り返る。
担当していたのは、設立50年超の歴史を持つ金岡工場の移設・移管工事。広大な建屋内に新たなライン生産設備を設置するもので、同社にとっては数十年ぶりの工場再編プロジェクトだった。
「1年かけて、いくつかのラインを設置したのですが、工事中は安全のために電気を切断していて、夏場でもエアコンがなかったんです。騒音とホコリを出さないよう、窓も閉め切ってマスクをしながらの作業。熱中症で倒れる人が出ないように、冷却剤を山のように運び込んで……。家に帰ったときは家族と話す余裕もなく、倒れるように眠りました」
完成後のライン設備では、「BSユニット」という業務用エアコンの付属機器が生産される。がらんどうになった構内に、一からラインを設置する仕事だった。
現場監督として建屋の1つを担当した彼女は当時、入社3年目の24歳。ともに働く職人や作業員は男性ばかりだった。
「私のほうが知識がないのは明らかなので、わからないことがあれば、こちらから丁寧に質問するように心がけました。みなさんから教えてもらわないと、とても仕事にならなかったです」