真夏の修羅場を経て、エンジニアとして成長

このプロジェクトの難しさは、移設前のほぼ半分の面積の場所にラインを再現しなければならない点にあった。

(上)新製品の試作品が届くのは午後が多い。複数の目でチェックして不具合がないか確認。(下)エアコンの機能を検査する治具(じぐ)を作る。1人の仕事は夜に集中して行う。

「単純にギュッと凝縮すればいいというものではなく、作業者の動きやすさや安全性を守りつつ、品質にも影響が出ないレベルを守らないといけない。機械の動作を何度も確認しながら作業を進めていきましたが、ヒヤヒヤすることが山のように起きました」

期日が迫ってくると、「あかん。これ動きません!」「何しとる。早く改造せんと!」と現場に怒号が飛び交った。

予定された生産開始日、BSユニットの最初の一台が出来上がっていく様子を、上司や業者の仲間とともに見守った。ラインが順調に稼働していることを確認し、思わず安堵(あんど)のため息をついたとき、上司にこう声をかけられた。

「3年目のわりにはなかなかの修羅場だったね。100点とは言わないけど、まぁ、よう頑張った」

植野さんは2014年、関西大学の工学部を卒業後にダイキン工業へ入社した。地元の大企業である同社にはもともと馴染みがあり、和気あいあいとした会社説明会や懇談会に惹(ひ)かれて志望したという。

「でも、生産技術部に配属された1年目はわからないことばかり。CADを読むこともできないし、設備や電気関係の知識もなかったので、先輩たちに叱咤(しった)激励されながらゼロから仕事を覚えました。最初はしんどかったです」

彼女の所属する「PAラインエンジニアリンググループ」では、新しい工場設備や技術や新製品が、既存のラインで生産できるかを検証しており、試作室では新製品を組み立て、生産性や品質などの評価を行う。20kgの板金を台車に載せて、夏の炎天下の構内を何度も往復したときは、さすがに男性との差を痛感したという。

「やっぱり男性とは体力も、ものを運べる重量も違います。男の先輩に『それ、運べるやろ?』と言われて、『いやいや、1人では……』ということもありました」

植野さんは身長150cmと、女性としても小柄。とくに体力に自信があったわけでもない。

「いまなら『誰か手伝って!』と迷わず言えますけど(笑)、当時はほぼ男性ばかりの部署で、親しい人もいないので、とにかく自分がやらなくてはと必死でした」