文化の違いを肌で感じる

次なる時代の覇権を握るのはどの分野の、どの企業になるのか。虎視眈々(たんたん)とチャンスをうかがう藤森氏の事業戦略に基づき、新興国向けに開発した商品や技術、ビジネスモデルを先進国へと還流する「リバース・イノベーション」も本格化している。

そうした流れに乗って成長の機会をつかんだのが、山上遊氏(36)だ。R&D本部新事業研究センターに所属し、アフリカのケニアで循環型無水トイレを普及・促進させるプロジェクトに取り組んでいる。最近は、一年の半分はケニア暮らしだ。

R&D本部 新事業研究センター 新技術事業推進部グローバル環境インフラ研究グループ主幹・山上 遊氏「トイレのない生活がいかに大変か。ケニアで日々痛感しています」

「現地では午前7時ぐらいからメールチェックを始め、外出の際は午前9時には出発するようにしています。渋滞はひどいですが、ケニアは幸いIT化が進んだ国ですから、移動中もパソコンを使って仕事をすることができます。渋滞のピーク時間を避けるため、午後2時すぎには現場を離れ、日が沈む前にはアパートに帰り、そこからまた残った仕事を片付けています」

国連の推計では、2050年までに世界の人口は約100億人に達する見込みだ。そのときに、必ず問題となるのが水の使用である。LIXILは旧INAX時代から無水トイレの開発に取り組んできた。山上氏はその頃、同社の生産管理部門にいて、もんもんとしていた。「以前からこうしたソーシャルビジネスには興味を持っていましたが、生産側からそれを事業提案するのは難しい。生産管理に求められるのは効率性の追求によるコストの削減です。いずれは海外へと思って英語も学んでいましたが、それをどうやって活かせばいいのかわからない状態が続いていました」 チャンスが巡ってきたのは13 年4月のことだ。思い切って研究所への異動を希望すると、希望がかなった。ケニアでは、ベトナムで作った試作機をモニター試験している。

「モニター用のトイレを設置する建屋は現地で作っています。図面通りのものが納期通りに完成することは、まずありません。トイレのドアが開かないなどのトラブルもザラにあります」

そうしたミスを防ぐため、山上氏は日本では考えられなかった中間チェックをいくつも設け、足しげく製造現場に足を運んでいる。CSR目的でスラムへインタビューに行く際には食べ物にも気を使い、水分もあまりとらないようにしている。スラム地区には、日本のように衛生的なトイレはない。トイレを我慢しすぎてぼうこう炎になったこともある。

「環境を変えていくためには、政府機関や市民団体との密な連絡も欠かせません。現地では計画はあっても資金的裏付けがなかったり、なかなか実行されなかったりしますが、そうした文化の違いを感じながら仕事をしていると、つくづく『これがダイバーシティなんだなあ』と痛感します」

撮影=吉澤健太