仕事は子供のある・なしに関係ない
アンナが参加していたDellの女性起業家イベントに毎年参加しているのがベアだ。現在40代後半。21歳、学生時代にカリーナを妊娠し、シングルで子供を育てた彼女は、ツィプリース氏が取り組むロールモデルの重要性に同意した。
シングルマザーの道を選んだベアの場合、働く以外の選択肢はなかったが、大変な状況を持ち前の明るさとユーモアで乗り切った。例えば外出。子供がいると制限されるが、友達と同じように外出したいという思いから、3人の母親で交互にお互いの子供の面倒を見るようにした。次に、外出しながらお金を稼ぐ方法はないかと、同世代の若い女の子のトレンドをモニターするサービスを思いつき、彼女たちがキャッチしたトレンド情報を企業に売った。
卒業後、しばらくの間はテレビ局などに勤務したが、ひらめきと実行力はその後の起業につながる。娘のカリーナが14歳になったとき、ベアは学校経営に乗り出した。自分が寝た後も仕事をしていた母親を見てきたカリーナは、やりたいことに向かって進む母親の背中を押してくれたという。
「雇用される社員であろうと、起業家であろうと、自分が到達したいことを目指して頑張る。これが自分の職業観」とベア。「子供がいる・いないは関係ない。私は両親が働くのが当たり前という環境で育ったからかもしれない。子供の時のロールモデルはとても大切だと思う」と続けた。
ベルリンのベアの自宅に遊びに行った時、カリーナは母親と一緒にご飯を作っていた。「建築家を目指して勉強中」というカリーナからは、母親譲りのポジティブさと芯の強さを感じた。
ドイツの首相は女性だけれど
すっかり欧州連合(EU)の顔となったアンジェラ・メルケル首相を国のトップに持つドイツだが、女性は母親になるとキャリアを捨てるというのはある程度本当のようだった。ちなみに、メルケル首相は旧東ドイツ出身。「男のように振る舞うことで成功している」と彼女を評する人もいる。
ドイツではこのほかにも、学生時代からの付き合いである友人を含む数人の素晴らしい女性にあって話を聞くことができた。国や文化の違いを超えて、女同士共感できる話ばかりだった(ちなみに一番当てにしていたわが友人は、子供の父親と別れ、現在恋愛中。こちらの質問はそっちのけでノロケ話ばかり。それでも13歳になる子供が帰宅すると、母の顔になり、忘れ物はなかったか、などといろいろ聞いていた)。皆、プライベートとビジネスの両方で、喜びややりがいと同時に多少の悩みと不安を抱えながら、自分なりの生き方を模索している。
ドイツと日本は共に少子化に悩む国だが、細かな環境や事情はもちろん異なる。それでも、「完璧を目指すことが母親を苦しめている」という解釈には納得した。日本で子育てをする自分の経験で言うならば、例えば子供が学校に通うために用意するこまごましたモノや、何かと細かいルールが少し減るだけで、あるいはキャラ弁に代表される“愛情のこもった手作り弁当”のプレッシャーがなくなるだけで、完璧を目指してしまう、あるいは目指すことを望まれて苦しむ母親たちの神経はかなり休まるような気がするのだが……これを読む皆さんは、どう思われますか?
欧州IT事情に詳しいフリーランスライター。@IT(アットマーク・アイティ)の記者を経て、フリーで活躍中。