完璧主義が両立を難しくしているのでは

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ベルリンでメディアコンサルティング会社を営むカティアは、4歳と2歳の女の子を育てている。

「完璧主義」という言葉で分析してくれたのは、カティアだ。「母としても完璧に、仕事も完璧にと思うから(働く母は)こなせない」と話す。自分自身に完璧を求める背景には、社会のプレッシャーもある。親戚や周囲から母として完璧であることを求められ、会社に行けば正社員として完璧な仕事を求められる――というのがカティアの意見だ。

カティアはベルリンでメディアコンサル事務所を設立したが、生まれも育ちもドイツ南部。20代は保守的といわれるミュンヘンで過ごした。ベルリンの壁崩壊後に実現した1990年の再統一まで東と西に分断されていたドイツでは、地域によって家族観、仕事観が異なる。共産主義だった東ドイツでは、女性は出産後すぐに職場に復帰するのが当たり前で、そのためのインフラもきちんと整備されていた。4歳と2歳の女の子を持つカティアにとって、東ドイツの文化を半分持つベルリンは子育てと仕事が両立しやすい都市だ。しかし「ミュンヘンでは“3歳まで自宅で保育”が主流」なので、託児所そのものが少ない。多くの女性は仕事を離れて3年後に戻るが、フルタイムで働くことはありえないというのがミュンヘンの子育て観だという。需要の問題なのか、最近出産したカティアのミュンヘンに住む友人も、乳児向けの保育施設がなくて困っているそうだ。

カティア自身はどうやってキャリアを築き、維持してきたのか。弁護士としてスタートした後、米国系のコンサルティンググループへ、その後大手メディア会社に転職し、その後起業した。独立した2年後に妊娠が分かったが、妊婦姿をクライアントに見せることはなかった。「ビジネスパートナーとして真剣にとってくれないと思った」とカティアは理由を説明する。出産から3カ月で復帰したが、折しも市場状況は芳しくなく、周囲の目もワーキングマザーをビジネスプロフェッショナルとして扱ってくれないと悩んだ。「とても難しい時期だった」と振り返る。「子供がいても、プロとして仕事ができることを実証していくしかなかった」。

風当たりを感じたのはビジネスだけではない。同じ母親同士でも感じた。「自分に完璧に、自分に厳しくしようとすると他人にも厳しくなる。母親同士が戦っている」とカティアは形容する。「子供が小さいときは母親は家にいるべき」という批判的な意見を聞きたくないという理由で、カティアは同じように働く母親を集め、”野心を持って働く母親”の集まりをつくった。週に1度集まり、お互いの悩みを聞き、情報を交換し、励ましあった。

このような経験があったためか、その2年後に2人目を妊娠した時は楽だった。仕事では実績があり、会社も好調、母親としての自分にも多少の自信があった。現在、5時にオフィスを出て子供が寝る10時までは家族との時間。その後、仕事に戻る。効率よくニュースを読んだりメールをチェックできる、スマートフォンやタブレットなどの技術を最大限活用しているという。社員に対しても成果主義で接している。労働時間の長さではなく、労働時間が短くても仕事で成果を出していれば文句は言わない。

もちろん、パートナーの協力は不可欠だ。家事を半々というのはまだまだ現実的ではない。だが「7日のうち3日でも皿洗いをしてくれれば、それでもいいかもと思うようになった」という。パートナーとは、仕事、家事、育児すべての責任が重複しているからこそ安心ができると話しているという。1人目が4歳になった現在、”野心を持って働く母親”のグループは自然解散した。「みんな、働く母として自分たちの生き方を見つけたんだと思う」(カティア)

自宅保育の母親に手当て――日本を下回る出生率

ドイツでは7月半ば、ちょっとした変化があった。自宅で育児する母親への手当てが無効となったのだ。この法律はミュンヘンのあるバイエルン州のキリスト教社会同盟(Christian Social Union)の提案で、1歳から3歳の子供を託児所などの保育施設に預けずに自宅で育児する母親に月100~150ユーロを支給するというものだった(編注:2015年11月現在、1ユーロ=約132円)。この法案に反対する人たちからは「母親の就労意識を下げ、不平等を拡大させている」という批判があったという。また、現金支給よりも根本の問題である保育施設不足を解消すべきだという声も多かったようだ。

手当ては2013年8月より実施され、支給率は73%。1~3歳の子供を持つ母親10人中、7人以上が受け取ったことになる。子供の人数にして46万人。連邦統計局によると、受給した人の多くが旧西ドイツに住む人たちだという。受給期間にもばらつきがあり、旧西ドイツのバイエルンでは平均20.6カ月分を受給したのに対し、旧東ドイツのチューリンゲンでは13.3カ月分だった。

だが、このような取り組みもむなしく、ドイツの少子化は進行中だ。5月にハンブルグ経済研究所が発表したデータによると、ドイツの出生率(人口1000人あたりの出生数)は8.2人。これはフランスの12.7人はもちろん、日本の8.4人をも下回る。ドイツは移民大国でもあるが、移民に対する反対勢力もある。少子化が続くと労働コストが跳ね上がるという専門家の予想も出ており、現在のような経済的地位を維持するのは難しいだろうという意見もあるようだ。

一方、”外国人”であるナターシャは上述のような現金支給など、子供に対する政策は自国のフランスよりも手厚いと感じている。「ベルリンでは、子供が3歳を越えると、補助金を受けられる保育施設がフランスより多いと感じる」とナターシャ。ベビーシッターも全額ではないが税額控除の対象だ。そして、妊婦の解雇、出産後に復帰を希望する女性社員の解雇も法で固く禁じられている。